抄録
日本の後期第四紀編年の基準断面として南関東の堆積物は,第1に海成層との関連が求められること,第2に下末吉海侵以後の時間の経過が関東ローム層によってほぼ連続的に埋められること,第3にこの地域の研究は非常によく進んでいることなどによって,理想的なものといえる.これらの資料を中心として,さいきんの筆者およびその協力者の考えをとりいれ,日本の後期第四紀の編年を論じた,その中から主なことがらを摘記する.(1)後期第四紀の5時階を古い層から i)下末吉期 ii)下末吉ローム期 iii)武蔵野ローム期 iv)立川ローム期 v)腐植土期とする.(2)3つのローム層の堆積間隙の時間の長さは従来,予想されたよりもずっと小さい.(3)武蔵野礫層と下末吉ローム層のすくなくとも上半部とは同時異相であり,前者は下末吉層堆積後,ひきつづきあるいは小間隙をもって重なっている.(4)C^<14>年代の助けをえて分散して産出する植物化石から気温を推定し,気温変化曲線を作った.この作業から従来,未知であった立川ロームにおける亜間氷期の存在がいくつか知られた.またその変化の模様は,欧米において知られてきたものと年代的にかなりよく合う.(5)日本旧石器文化の年代位置づけはつぎのような予想を可能にする.すなわち,縄文文化の起原はこの文化の末期において近接地から土器製作技術の輸入あるいは日本で独自に土器が発明され,それが縄文文化に伝承されたらしいことを推定した.縄文文化における土器の古さの起原はこれによって説明できると思われる.