抄録
新潟県月岡温泉は,原油と共に噴出したpH7.3,Eh-184mV,49.2℃の化石海水型の温泉で,その源泉井戸には黒色の原油と緑色バイオマットが存在する.このバイオマット中には糸状細菌および球菌が存在し,銅藍(covellite; CuS)の鉱物化が認められた.銅藍の構成元素であるCuは原油に由来している.SEM観察により,油滴表面での糸状細菌のコロニー形成および溶菌作用によるバイオフィルムの形成が認められ,さらに,その表面に銅藍の結晶化が認められた.微生物の培養実験により,バイオマット中には石油分解菌である糸状細菌と硫酸還元菌である球菌が同定された.さらに,有機結合およびリン脂質分析により,バイオマット中のリン脂質,特に,界面活性作用を持つレシチンおよびリン酸エステルの存在が明らかになった.また,糸状細菌は二重膜および細胞外多糖類(EPS)を持ち,リン脂質はこの部分に含まれると考えられる.糸状細菌はバイオマット表面に付着した油滴を栄養源とし,球菌が生成した硫酸塩を電子授与体として代謝を行い,溶菌後,バイオフィルムを形成する.油滴中のCuは温泉水中に溶出し,中性で還元的な環境下において銅藍の結晶を形成する.すなわち,本研究において,石油分解菌の細胞膜およびEPSの有機界面活性作用と硫酸還元菌による水質の還元化が,油滴表面での銅藍の形成に重要な役割を果たしていることが明らかになった.この結果は,土壌および地下水圏の石油汚染地域における石油の分解・除去メカニズムの解明の糸口となると考えられる.