抄録
鳥取市国府町宮下の西黒沢海進期堆積物からは,浅海性魚類化石が多産する.魚類化石のタフォノミー解明の一環として,この論文では中-下部中新統鳥取層群の堆積相を解析し,魚類化石層の形成プロセスを明らかにする.主な結論は,次の4点にまとめられる.1)鳥取層群の堆積相解析によって,各層準の堆積環境は次のように復元された:蛇行河川〜扇状地(円通寺礫岩砂岩泥岩層),湖成デルタ(生山砂岩泥岩層),蛇行河川-氾濫原(普含寺泥岩砂岩層),外側陸棚以深(栃本頁岩層).2)栃本頁岩層基底層準に位置する宮下の魚類化石層は,極細粒砂岩とシルト岩からなる層厚数mm〜1mm未満の薄互層で構成される.この化石層からは浅海性魚類化石が多産するが,底生生物の体化石や生痕化石は全く発見されない.これらの事実は,(1)魚類化石層が沿岸部の低エネルギー環境,すなわちラグーンで堆積したこと,(2)ラグーンが深くて閉鎖的であったために強固な塩分躍層が発達し,(3)密度成層していたために,低層の高塩分汽水が恒常的に無酸素状態になっていたことを示す.3)海進期のラグーン堆積物はしばしば外浜侵食によって削剥されるが,宮下の魚類化石層は堆積空間の急速な増大によって保存されるにいたった.この増大は,造構性沈降運動(平均速度0.45mm/y),mid-Miocene climatic optimum期の汎世界的海水準上昇(TB2.3),および,広範囲にわたる後背地の沈水による堆積物供給速度の減少,に由来した.4)魚類化石層は次のプロセスをへて形成された:(1)荒天による高潮時に,浅海性魚類を含む海水がラグーン内へ遡上,(2)ラグーンの底層海水中における溶存酸素消費による魚類の衰弱・死亡,(3)懸濁洪水流から沈降した極細粒砂とシルト粒子による魚類遺骸のすみやかな包埋・被覆.