2017 年 71 巻 4 号 p. 157-166
流体,つまり水や大気にしばしばカオスが発生する.固態の物質や地殻さえも,ある種の流動性を持つ.この性質は,とくに非常に長い時間において顕著である.カオスは人間社会にも現れる.自然と社会のカオスの複合効果は極めて複雑である.自然における“法則”には二つの種類がある.一つは証明を要しない“原理(公理)”,もう一つはこれから導かれる“法則”である.他方,‘科学的’作業に用いられるある種の“法則”は,実際には 散らばりをもつ分布の示す“一般的傾向”である.これについては,カオス発生の可能性も無視されてはならない.しかし,自然現象に見られる一般的傾向が,地球科学や社会科学で,しばしば決定的法則であるかのように扱われている.活断層の長さと地震動の強さとの相関関係が,安易に原発周辺の地震動の予測に適用されてきたことなどその典型例である.見かけの回帰直線が,データの散らばりの地質的要因の検討なしに用いられてきたのが実情であった.