2019 年 73 巻 2 号 p. 93-102
石器時代の北海道における石材産地推定の試みを,珪質頁岩,蛇紋岩質土器,蛇紋岩関連玉類について紹介した.ある遺跡への石材の供給比率(類似の用途の石材の中での割合)-(石材産地からの)距離図は,研究の進展によって変わるものの,定量的な図として作成可能である.この図の上に,当時の人々の各石材に対する「価値観」の目安として,「価値観基準線」を仮定し,個々の石質に対する価値観を検討した.
これによると,渡島半島における珪質頁岩は,もし「高価値観」が得られていれば期待される供給比率を下回り,その価値観は黒曜石に比べて低いと考えられる.これは珪質頁岩が産地より遠方へ流布している可能性が低く,逆に黒曜石は遠方まで供給される可能性が高いことを意味する.
蛇紋岩質土器は神居古潭帯の周辺の遺跡に分布し,蛇紋岩メランジュの地すべり堆積物を利用していると考えられる.壊れやすく質の低い土器で,同時代に普通の良質の土器が併用されていたにもかかわらず,やや広範囲に使われていたことは,当時,比較的高い価値観を持たれていたことを示している.
蛇紋岩関連玉類は,いずれもその産地に比較的近い遺跡では,その産地のものが大量に使用されているらしい.玉類は産地が近くても高い価値観を持たれていたと考えられる.