2020 年 31 巻 2 号 p. 15-35
本研究では,台湾政府の「科技部(Ministry of Science and Technology:MOST)」によ る大学・研究機関の学生および教授・研究者の起業を奨励する政策に注目する。科技部の 政策の中でも,とりわけ最も初期ステージの主に学生起業家チーム向けのプログラムであ る「創新創業激勵計畫(From IP to IPO Program:FITI)」とその選抜チームへの現場支援 実務を担うため新竹科学園区内に開設されたスタートアップ育成施設「竹青庭(Young Entrepreneur’s Studio)」について詳しく解説する(科学園区も科技部の管轄下)。FITI は, アクセラレータと(段階的に実施される)ビジネスコンテストを組み合わせたようなプロ グラムである。「竹青庭」は,インキュベータにオープンスペース(コワーキングスペース) を併設したような施設である。FITI チームへの支援実務を担う他に,科学園区独自の長期 的観点から多様なスタートアップ支援策を講じ,加えてスタートアップと園区大企業との 連携によるイノベーション促進をも企図している。全体として,科技部の政策は,その傘 下の団体・計画・資源を動員し,大学・研究機関の研究成果に基づくスタートアップを奨 励しつつ,同時に成熟したハイテク企業の活性化をも促し,台湾ハイテク産業のさらなる アップグレーディング実現を目指すものと解釈される。