日本建築学会計画系論文集
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擬似圧縮性法による物体周りの剥離流れの数値解析
片岡 浩人水野 稔
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1998 年 63 巻 504 号 p. 63-70

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抄録

1.はじめに 建築構造物周りのように鈍い物体周りの剥離を伴う流れ場は、物体の形状と周辺圧力分布によって支配される。従って、建物周りの剥離流れを扱う場合、圧力場の予測精度と構造物周辺の格子解像度の両方が重要である。これに対して既報では、領域分割法の一つであるマルチブロック法と擬似圧縮性法との組み合わせを提案した。本報では、まず擬似圧縮性法特有の各擬似圧縮性パラメータの最適値について考察し、次にレイノルズ数22,000における正方形角柱周りの気流解析を行う。既往の実験データならびに計算結果との比較を通して、擬似圧縮性法とマルチブロック法の組み合わせによる剥離を伴う流れ場の予測精度を検証する。ただし乱流モデルを使用せず、数値粘性の影響を極力取り除いた層流計算を行うものとする。2.基礎式 擬似圧縮性法の基礎式は、連続の式に圧力の擬似時間微分項を加えたものと、運動方程式に速度の擬似時間微分項を加えたものからなる。これら基礎式を一般座標系を用いて表わした。3.計算手法 上記の基礎式を有限体積法を用いて離散化する。対流項は四次の中心差分に四次の数値粘性項を付加することで風上化を行う。また圧力式にも同様に四次の数値粘性項を付加する。時間微分項は、擬似時間に関しては陽的に物理時間は陰的に扱う。擬似時間刻みの値は、擬似圧縮性を導入したことで生じる擬似音速の値を用いて、各格子点毎に異なる値を与えることとした。流入流出境界条件として特性の方法を用いる。4.最適パラメータについての検証 一連の円柱周りの二次元気流計算を行い、擬似圧縮性パラメータの違いによる計算の収束に与える影響を調べた。収束が早くなる最適値は、物理時間刻みの大きさによって変化し、レイノルズ数を変えてもその傾向は変わらなかった。また、非定常空気力の時刻歴の比較から、擬似圧縮性パラメータの値は解の収束性には影響あるものの、流れ場には影響を及ぼさない事が判明した。さらに既往の考察を基に、最適な擬似圧縮性パラメータの値と物理時間刻みの関係について検討を行った。5.正方形角柱周りの気流解析 レイノルズ数22,000における正方形角柱周りの三次元気流解析を、乱流モデルを用いずに行った。対流項における数値粘性の影響を除去するために、同項にかかる係数を1/2(UTOPIAスキームの半分)とし、物理時間微分に関しては二次精度とした。また角柱周りの格子解像度の異なる三つの格子を用いて計算を行った。その結果、最も粗い格子を用いた場合を除いて、時間平均速度分布、特に角柱風下の逆流領域の大きさがLynの実験結果ならびに村上らによるLES計算結果と良く一致した。乱流モデルを用いない本計算によるこの一致は、角柱周りで生じる剥離流れの基本的な構造を捉えるだけの十分な格子解像度があった為と考える。さらにレイノルズ応力分布の計算結果も実験結果との比較的良い一致がみられた。6.結論 擬似圧縮性法を用いた物体周りの剥離流れの解析を行った。一連の円柱周りの二次元気流解析により、擬似圧縮パラメータの最適値は物理時間刻みと関連付けらることを明らかにした。また正方形角柱周りの三次元気流解析を行い、既往の実験結果や計算結果との比較的良い一致がみられた。これにより、擬似圧縮性法とマルチブロック法を組み合わせて用いることで、物体周りの剥離流れが精度良く捉えられることが示された。ただしこれらの解析は本解析手法の検証を目的として行われたものであって、乱流モデルの使用を否定するものではない事を付記する。

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© 1998 日本建築学会
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