2003 年 68 巻 571 号 p. 93-99
ブラジルでは、低所得者住宅の住環境問題がまだ十分に解決されておらず、その改善を図る方法の開発が重要課題となっている。そこで本論文では、住環境改善の一例として、最近ブラジルにおいて試みられているPOE<事例(1)>に着目し、それが集合住宅におけるオープンスペースの質的改善に果たす役割を考察する。また、POEの成果を既存集合住宅の環境改善に活かす可能性を検討するために、日本の集合住宅における居住者参加<事例(2)>との比較考察を行う。事例(1) ジャルディン・サン・ルイス団地のPOE この事例は、ブラジルのPOEで最初に外部空間の評価を本格的に行った例である。そこでは、居住者アンケートに基づきオープンスペースの問題点と改善策が示されたが、その成果は居住者に還元されずに終わっている。しかし一方、居住者の間では、アンケート調査を契機にオープンスペースの自主的改善の動きが生じている。本論文では、こうした現状を踏まえ4専門家が住民参加による住環境改善を支援する必要性を提起している。事例(2) アクアフオレスタ・ルネ稲毛:庭づくりワークショップ この事例は、入居予定者の主体的参加による「庭づくりワークショップ」の試みである。ここでは、入居1年前から入居2か月後までの14か月にわたり、専門家の支援を得ながら、入居者が自らの手でオープンスペースのデザインを行った。その結果、この集合住宅では、庭づくりに止まらず各種のクラブ組織が生まれ、活発に活動を展開している。以上の比較考察から、ブラジルにおいては、外部空間の評価を含むPOEの成果を居住者に還元し、専門家の支援のもとに住民参加による住環境改善の計画・実践を進めることが、当面の有効な方策であると考えられる。こうした取り組みの中から、コミュニティ意識と住民イニシアティブが成長していくに違いない。