日本建築学会計画系論文集
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建物性能評価手法に関する比較研究
ロル ピータ加藤 彰一恒川 和久
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2005 年 70 巻 589 号 p. 41-46

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抄録

本研究は、建物性能評価の指標および手法に係わる通文化的(cross-cultural)比較研究を主眼として継続されている、IBPE (International Building Performance Evaluation: 国際建物性能評価)プロジェクト*1の一環として行っている、日本国内のワークプレース研究から帰結したものである。IBPEの目的は、人間一環境関係の観点からワークプレース環境に係わる調査研究について比較分析やデータ整備を行う点にあり、特に通文化的比較分析をポイントとしている。本研究では、評価手法自体の比較分析に注目して、方法論および評価基準について分析・考察を行っている。日本国内では、ワークプレース環境の基本的な性能評価ツールとして、NOPA(社)ニューオフィス推進協議会ニューオフィス・ミニマム規格の事例*2があり、1995年に開始されたニューオフィスマーク認定制度の評価基準として、また、同時期より日経ニューオフィス賞の審査の基本として用いられている。こうした実績から国内の執務環境を検討する際に非常に重要なツールとしてミニマム規格を位置づけることができる。しかしながら、この規格は固有の執務環境状況を個々に扱う規格の集合体として一般化されたものであり、このことは評価手法としての弱点となっている。本研究では、評価手法の可能性や能力を評価力として規定し、NOPAミニマム規格に対して、多様な評価指標を体系的に分類した研究手法である、IBPEツールとの比較分析を行った。分析方法としてはヴィシャーによる研究成果*5を援用しており、表1としてワークプレース環境評価指標の分類結果をまとめている。用いた分類軸は、i)機能的快適性、ii)ワーカーの健康や快適性、iii)建物機能、iv)組織およびマネジメント課題である。評価指標の分類分析および評価に係わる事例研究の結果、個々の指標は個々の評価ツールによって、必ずしも把握できていないことが判明した。ここで事例とした評価手法では、照明および音響、室内温度といった基本的な環境要素に係わる性能に関連して同様な指標が準備されている。NOPAミニマム規格では、経営や運用上の課題に関する指標や、オフィス家具の品質、ワーカーの健康や福利といった指標が準備されているが、残念ながら、ミニマム規格として最低水準を規定したものであり、「最適な」水準を示したものでなく、個々の性能設定における課題を特定できない点が問題である。また、ミニマム規格では、利用者満足度評価を規定していないため、ワークプレース性能に係わるPOEの調査的段階の評価を行うことが困難となっている。VRテクノ・プラザを対象とした評価プロジェクトでは、IBPEツールを用いた場合に利用者からのフィードバックが可能となり、評価者にとって建物性能評価に係わる付加的な情報を得ることが可能となった。その後の研究*8-10では、利用者のワークスタイルの多様性を示す指標としての有効性を検証している。ASTM規格*3,4,11では、NOPAミニマム規格とともにIBPEツールでも欠落していた、機能的快適性や建物の利便性といった課題の評価が可能となっている。先行したORBIT研究の成果を受けて、ASTM規格では、個々の課題指標に対して2つの評価尺度が用意されており、一対の評価尺度の一方は、利用者グループに固有の要求水準に係わるものであり、他方は、施設自体の評価であり、要求内容を満足する程度に関するものである。一対の評価尺度は、利用者の要求内容(機能性)に係わるものと、施設の能力(サービス可能性)に係わるものとして整備されており、組織と施設の適合性が主眼となっている。ここで、特に最低基準もしくは最高基準について設定しようという意図はないのである。NOPAミニマム規格の策定にあたっては、施設のサービス可能性の評価において容易性を確保する点に特に配慮がなされており、その変更を行う際には十分な検討が必要である点には言を待たない。評価基準をより精緻なものとし、利用者満足度調査の導入などを通して手法の整備を進めることによって、ミニマム規格の利用・適用方法が煩雑となり、悪影響が生じる可能性もある。手法の標準化の程度と通文化的比較分析の程度に対して、評価結果の理解の程度や使用の難易度といった点のバランスを考慮する点がポイントである。本研究では、国際的な見地から建物性能評価手法としてのニューオフィス・ミニマム規格の有効性や限界を論じたが、この10年間に日経ニューオフィス賞とニューオフィスマーク認定制度を通してミニマム規格を用いて評価された事例は、質・量ともに日本を代表するオフィス環境であり、このデータベースとミニマム規格を有効に活用してワークプレースに関する研究を進める必要がある。

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© 2005 日本建築学会
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