抄録
本稿では,茨城県のJA農産物直売所を対象に,直売所の集落レベルのインパクトを「差の差(Difference in Differences: DID)推定」を用いて分析した.推定に用いた農産物直売所のインパクト指標は「露地野菜作農家率(農産物販売金額第1位部門)」であり,欠落変数バイアスを考慮して,推定は空間エラーモデル(Spatial Error Model)による2期間の差分推定(固定効果推定)とした.推定された結果から,(1)農産物直売所は集落の露地野菜作農家率の上昇に寄与すること,(2)直売所からの距離が遠くなるほどその影響が弱くなり,インパクトの及ぶ範囲は直売所から半径6 km程度であること,などが明らかとなった.また,農産物直売所の立地は,露地野菜作農家率の低い地域で開設される傾向にある.この点を考慮すると,茨城県におけるJA農産物直売所は,県西,鹿行地域のような大規模野菜産地とは異なる小規模産地に対して,地場産農産物の販売の場を提供することにより,露地野菜生産を後押しし,ひいては農家所得の増大に一定の役割を果たしてきたと考えられる.