日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会春季学術大会
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山間地域における子どもの遊び空間の変容
長野県四賀村保福寺町地区の事例
*藤永 豪
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p. 000009

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抄録

1.はじめに 子どもの生活空間については,遊び空間を中心に多くの研究が蓄積されてきた。その中で,現代の子どもたちの遊び場は,住宅開発や道路整備などの土地利用変化や児童数の減少,習い事による時間的制約など子どもの生活そのものの変化により,減少,縮小傾向にあることが繰り返し指摘されてきた。では,都市と比較して,はるかに広大な面積を占め,豊かな自然が残り,大規模な土地利用変化がみられない農山村では,子どもの遊び空間はどのように変化し,その変化の要因はどのようなものであろうか。本発表では,山間地域における子どもの遊び空間の変容について,長野県四賀村保福寺町地区を事例に報告する。2.対象地域の概要四賀村は長野県中北部に位置し,南を松本市と接する。保福寺町地区はその四賀村の南東部に位置し,標高およそ750~900mにある。2000年における保福寺町地区の総世帯数は84,総人口は286である。 保福寺町地区は江戸期に,中山道に通じる北国脇往還西街道の宿場町として栄えた。しかし,明治期に入ると輸送の中心は鉄道へと移り,宿場町としての機能は衰退した。その後は農林業を主軸とする山村へと変貌していった。第二次世界大戦終了後から1960年代半ばまでは,農林業とともに養蚕や製炭が盛んであったが,高度経済成長期以降は,農外就業者が増加した。同時に,若年人口の流出が顕著となり,児童数も減少した。1950年には73人いた錦部小学校保福寺分校の児童も,1970年には44人となり,1973年には保福寺分校が廃止された。3. 研究方法 本報告では,子どもの遊び空間の変容を明らかにするために,祖父母世代・父母世代・現代の子どもの三世代について,遊び空間を比較検討することにした。各世代の設定については,現代の子ども,すなわち小学生(特に4~6年生の小学校高学年にあたる子どもたち)を基準として,祖父母世代を60~80歳代(1920~40年代生まれ),父母世代を30~40歳代(1960~70年代生まれ)の住民とした。住民の小学生時の遊びを把握するために,アンケート調査を行った。調査内容は,主に遊び場と遊びの内容,遊び仲間である。その結果,祖父母世代102人のうち27.5%にあたる28人,父母世代61人のうち44.3%にあたる27人,現代の子ども14人のうち57.0%にあたる8人から有効回答を得た。そして,このアンケート調査と実際の遊びの行動実態を結びつけるため,世代別に具体的な遊び場の位置と遊び仲間の所在地について聞取り調査を行った。4.結果の概要 山間地域に位置する保福寺町地区でも,都市と同様に,子どもの遊び空間は縮小し,自然と触れ合う遊びが減少していた。その要因として,山間地域と都市における生活の質的差異がなくなったことや,護岸工事にみられる自然環境の改変,児童数の減少などが明らかとなった。加えて,コンピューターゲームの浸透から,保福寺町地区の子どもたちの遊びも屋内化が進行していた。 しかし,子どもたちがその遊びに適した場所を選定し,遊ぶことを禁止された場所で遊ぶなどの主体的な行動をとっていることも明らかとなった。すなわち,大人たちによって遊び空間が切り取られていく都市に対して,山間地域では潜在的な遊び場が残されており,子どもたちはその中で自己の意思決定において,比較的自由に遊び場を選定できるのである。これは,都市のような激しい土地利用の変化や,立ち入ることを絶対的に禁止された空間の拡大が少ないという,山間地域の特性によるものであった。

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