日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会春季学術大会
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奥日光,湯川における河岸侵食と凍結融解作用との関係
*湯本 学尾方 隆幸
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p. 000021

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抄録

1. 研究の目的奥日光・戦場ヶ原を流れる湯川は,冬季に季節凍土層を形成する寒冷な地域にあるため,河岸の侵食プロセスに凍結融解作用が大きく影響している可能性がある.本研究では,凍結融解作用が湯川の河岸侵食にどのように関係,影響しているかを明らかにすることを目的とする.2. 調査地域研究対象地点の右岸は軽石流堆積物からなる丘陵に面する.左岸側には自然堤防が形成され,砂・シルトが主な構成物質となり,ホザキシモツケや十数種の草本が生育している.自然堤防の前面には現河床面からの比高1m未満の侵食崖が存在するが,その横断面形状を見ると水面付近の下部が窪地,上部は庇形状となっている.その庇部分にのみ植生が見られる.湯川の水深は浅く,また砂床となっていて礫サイズの岩屑がほとんど見られない.そのため流水の持つ水力作用・研磨作用などの影響は小さいと考えられる.3. 調査方法発表者らは湯川中流域の左岸に観測点をおき,凍結融解期間における侵食崖の横断面形状,水位,凍結深,土壌硬度計による土壌硬度,含水比,および崩落土砂量の計測を2002年1月以降1週間ごとに行い,河岸侵食と凍結融解作用の状態を調査した.また侵食崖表面の地温観測をデータロガ_-_によって1時間間隔で行った.凍結融解期間後も夏季の台風の通過などによる増水に伴う河岸侵食への影響を継続して調査した.4. 結果および考察横断面形状の計測の結果,1月から3月上旬までは霜柱の形成や凍上による表面物質の粒子単位でのわずかな変化が生じたのみで,大きな侵食は生じなかった.この期間中,侵食崖表面での地温は常時0℃以下を示し,日周期性凍結融解作用はほとんど生じていないと考えられる.なお凍土層は水平方向に深度40cm以上形成されていた.3月中旬から4月上旬にかけて侵食崖の形状は大きく変化した.凍土・霜柱の融解,そして土塊の崩落が確認された.地温観測の結果から,3月12_から_29日にかけて日周期性凍結融解作用が生じたと思われる.この期間には凍結融解作用による崩落と,それに伴う河岸侵食が生じたと考えられる.3月30日以降,地温は0℃を完全に上回った.しかし土塊の崩落はその後も続き,4月上旬まで確認された.その崩落した物質の大部分は侵食崖の水面直下に堆積した.また融雪による増水は急激には生じず,水位は徐々に上昇した.そのために融雪出水による侵食はそれほど顕著には生じなかった.しかし3月29_から_30日にかけての降雨による急激な水位上昇の結果,融解時の表面物質の運搬が生じた.なお年周期性の季節凍土層は4月下旬に完全に融解した.凍結融解期間後には,梅雨や夏季の台風による増水によって表面物質の運搬が確認され,横断面形状にも変化が見られた.しかし融解期の変化と比較するとその量はやや小さかった.一方,自然堤防上には洪水による新たな堆積作用が生じ,さらに河岸近傍の水面下でも堆積が生じた.以上の結果から,湯川においては季節凍土融解時の侵食崖表面物質の崩落や軟弱化による侵食抵抗力の低下が,河岸侵食に大きく影響したことが明らかである.顕著な融雪出水は起こらなかったが,徐々に上昇した水位は軟弱化した表面物質を運搬したと考えられる.また夏季の洪水の影響と比較しても,凍結融解作用は湯川での河岸侵食に大きく影響すると考えられる.

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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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