日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会春季学術大会
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インドネシア・ボロブドゥール平野の地形発達史からの考察
メラピ火山噴火がボロブドゥール寺院周辺へ与える影響
*加藤 広隆春山 成子
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p. 000023

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抄録

 インドネシア・中部ジャワに位置するボロブドゥール平野は、メラピ山をはじめとする活発な火山群や、世界最大のボロブドゥール仏教寺院などの遺跡が多数散在する。ボロブドゥール寺院が、1016年のメラピ山噴火により埋没したという問題について、文献資料や考古学資料以外に、地形学の面から考察を行った。そこで、ボロブドゥール平野について、1.プロゴ川流域を中心とした地形分類図を作成し、地形要素を把握した。2.研究地域の表層堆積物が、メラピ山噴火に起因する一次堆積物であるか、洪水などによる二次堆積物であるのか分類した。さらに、3.ボロブドゥール寺院付近の平野面まで、噴火が直接影響を与えたのかという点を明らかにした。 本研究は、以下の方法で行った。1.プロゴ川の流量データや周辺地域の雨量データを集計し、一般的な自然環境を把握した。2.地形図(1/50,000および1/25万縮尺)の読図参照と現地調査を行い、ボロブドゥール平野の地形分類図を作成し、地形発達史および地形特性を把握した。3.メラピ山の火山活動報告や災害危険図をまとめ、過去の自然災害史(火山噴火史・洪水史等)と特性を把握した。 ボロブドゥール平野の地形特性については、次の点が確認された。1.プロゴ川およびエロ川を境に、東部はメラピ山の火山山麓扇状地、西部は沖積平野、南西部はメノーラ山地斜面に分類できた。2.平野を構成する堆積物は、周囲の完新世火山起源の直接降下堆積およびその二次堆積物である。東部メラピ山山麓扇状地については、1.表層地質は、メラピ山の火山性河成堆積物だが、ラハールやバンジールによる土砂供給が卓越(安山岩質砂礫層)している、2.扇状地末端面(プロゴ川付近)では火山性河成堆積物が湖成層および古メラピ山堆積層の上に堆積している、ことがわかった。一方、西部沖積平野については、1.表層地質は、周囲の完新世火山起源の一次堆積物およびその二次堆積物である、2.現地表下約10m以下に湖成層(河成二次堆積物)が存在している、3.東部地域で見られる安山岩質砂礫層はほとんど存在しない、4.プロゴ川流域には氾濫原は形成されず、河道内に段丘が形成されている、ことがわかった。 ボロブドゥール平野は、プロゴ川とエロ川を境に、砂礫質の火山山麓扇状地とローム質の沖積平野に分類できることがわかった。各々の表層地質のメラピ火山噴出物は、古メラピ山基盤層や湖成層の上に堆積している。メラピ山のラハールやバンジールは、プロゴ川以西に及ぶことはほとんどないと考えられ、ボロブドゥール寺院の位置する丘陵へもその影響は及ばない。平野の表層に、甚大な被害を及ぼすような、厚くかつ明瞭な、火山噴出物の一次堆積層は確認されなかった。つまり、メラピ山の噴火(1016年)は、直接、ボロブドゥール寺院の埋没には、関係していないといえる。

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