日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会春季学術大会
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北陸および全国の風祭と霊場について
*田上 善夫
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キーワード: 風祭, 寺院, 霊場, 北陸, 日本
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p. 000025

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抄録

_I_ 風の神,水の神などの祭祀 風祭では鎮風・鎮水や五穀豊穣が祈願され,農耕祭祀の性格が示される。また水や岩の信仰にもとづく観音や不動などへの祈願には風祭でのそれと類似する内容が含まれ,これらの多い地域では風祭が少ない傾向がある。ところで,風祭は山麓や谷などで行われることが多く,山の神との習合もいわれ,周辺山地とのかかわりが深い。こうした立地の特色はその起源や機能などに結びついており,類似の立地を示す社寺にも風の祭祀とのかかわりのあるものと考えられる。以下では全国の社寺立地の相異,およびそれぞれの成立に至る経緯とその後の変容より,それらと風祭とのかかわりについて明らかにする。_II_ 社寺にみられる立地傾向の差異 寺院は山号をもち参道には高い石段が多いなど,高所に建立されるものが多い(図1)。さらに神社は寺院より急傾斜地に立地することが多い。とりわけ金比羅,熊野,白山,日吉社など,山と関係の深い神社は急傾斜地に多い。寺院の中にも急傾斜地に立地するものがあり,とくに不動,観音はその傾向が顕著である。これらには岩壁への懸造りなど,特有の建築もみられる。_III_ 観音と地方霊場の形成 観音や不動は滝や岩窟などに祀られることが多く,そこは修行の場でもあった。近世以降には新西国,新四国などとして,これらの霊場が全国各地に開かれた。たとえば富山県では朴坂峠越え,中筋往来,倶利伽羅,氷見,高岡,一国観音,同四国霊場などがある。全国では新西国は中世以降,新四国は近世以降,不動は近代に開かれたものが多い。諸新西国霊場では本尊はほとんど観音であるが,諸新四国霊場では阿弥陀が最多で,観音,薬師,不動,地蔵と続く(図2)。また宗派は新西国では禅系が最多で真言が続くが,新四国は真言系が最多で禅,浄土寺院も多い(図3)。_IV_ 霊場化と風祭とのかかわり 後世の写しといわれる地方霊場には,西国・四国霊場とは異なる点も多い(図4)。たとえば,札所数は三十三などの聖数とは限らず,観音霊場も南方補陀落浄土を指向せず,発願地から結願地まで巡廻せずに配列される,などである。霊場は,島,半島,盆地,国などにあり,さまざまなスケールでの地域的まとまりを示す。こうした霊場に多い宗派も霊場形成以前の成立であり,教義も霊場と直接かかわらない。これらの宗派では本尊は特定されないことから,旧来の信仰対象が本尊として残されたものと考えられる。 霊場寺院は山地周辺に多くみられ,かつそこに神社が隣接することが多く,修行の場となる以前より神を祀る場であったと考えられる。しかし自在に現れる神に対して,その地に安置された仏像は,巡礼する対象として相応しい。こうした諸尊の受容やその後の変容は各地においてさまざまであるが,霊場の密集する地域では寺院が主対象となるため,神社での風の祭祀にも影響したものと考えられる。

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