日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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森林限界下における露岩表面の凍結・融解サイクル
*瀬戸 真之
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p. 24

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抄録

1.はじめに これまで岩温の観測には多くの例があり,凍結・融解サイクルを指標とした物理的風化作用が議論されてきた.日本における岩温の観測例には,Matsuoka(1990,1991, 1994),岩船(1992,1996)などがあるものの,周氷河帯よりも低い高度帯の露岩での観測例は少なく,十分にデータが蓄積されているとは言い難い.森林限界以下の斜面は,植被で日射が遮られることや,標高が低いことなどから,森林限界以高の斜面とは露岩の温度環境が異なると考えられる. そこで本研究では,足尾山地北部古峰ヶ原高原の森林に覆われた岩塊地で,表面岩温を通年観測し,現在露岩の表面に働いている凍結・融解サイクルの頻度および露岩表面の温度低下量を明らかにした.2. 観測方法 本研究では,次の2地点で観測を行った.P1は北向きの谷壁斜面上部のトア(高さ約5m,幅約8m,奥行き約3m)である.測定面の向きはN50°Eで傾斜は86°である.尾根上の平坦部からは,約100m離れている.P2は,北向きの斜面上部に位置する岩塊(高さ,幅,奥行きは,各約1.5m)である.測定面の向きはN24°Eで傾斜88°である.尾根上の平坦部からは約10m離れている.岩温の観測には,(株)T&D製 RTR-52を使用した.センサは径2mmのサーミスタで,-20℃_から_+80℃の範囲では平均で±0.3℃の精度を持つ.サーミスタは,対象の岩石に2cm深の穴をあけ,岩粉混じりのシリコンを充填して固定した.測定間隔は30分とした.本発表で使用するデータの観測期間は,2002.11.30_から_2004.5.4である.3. 結果と考察 P1の平均値は5.3℃で最高値は20℃(2003/8/24),最低値は_-_7.4℃(2003/1/16)であった.P2の平均値は4.9℃で最高値は24.4℃(2004/4/22),最低値は_-_11.3℃であった.両観測地点ともに2002年,2003年とも12月末_から_3月前半の期間にかけて表面岩温が全体として0℃より低い期間が続いた.岩温の振幅はP 2の方が大きい.観測期間中の凍結融解サイクル(FTC)は,2002_から_2003年にかけての冬はP1で33回,P2で30回であった.また,2003_から_2004年にかけての冬はP1で34回,P2で28回認められた.FTCが最多の時期は,3月後半で全サイクル数の半分以上が集中する.凍結破砕が最も効果的に起こるのは,_-_2℃_から_2℃を前後するときであり,このサイクルはEFTCと呼ばれている(Matsuoka,1990;Shiraiwa,1992).EFTCは,2002_から_2003年の冬はP1で6回,P2で2回認められた.また,2003_から_2004年にかけての冬はP1では認められず,P2で5回認められた.いずれの冬もEFTCは3月後半に集中して認められる.凍結指数は,2002_から_2003年にかけての冬はP1で271.4℃・days,P2で438.7℃・daysであった.また,2003_から_2004年にかけての冬はP1で227.1℃・days,P2で377.4℃・daysであった. 露岩表面では,年周期及び日周期の凍結・融解サイクルが出現する.まず,年周期サイクルについては,凍結指数を比較するとPoint 1とPoint 2では150_から_165℃・daysの差があり,表面岩温の低下量はP2の方が大きい.このことからP2の方が深くまで凍結したと考えられる. 次に2地点での日周期サイクルについて比較すると,Point 2の方が日較差が大きく,最大値では,Point 1の8.4℃に対してPoint 2は13.6℃と約5℃の差がある.P1とP2では,測定対象としたトアと岩塊の大きさに数mの差があり,質量が異なる.このため,より質量の小さいP2の方が外部の熱変化によって表面岩温が敏感に変化したと考えられる.この他に日較差の大きさには,測定面上空を覆う植生,観測地点の地形的位置が影響したと考えられる. FTCの頻度を,観測地点の緯度に大きな違いのないMatsuoka(1990, 1991)の結果と比較した.観測結果を比較するためには岩質や測定面の向きなどを考慮する必要があるが,森林限界を超える斜面の方がFTC, EFTCともに頻度が高く,FTCで21_から_93回,EFTCで30_から_86回もの差がある.このように日周期の凍結・融解サイクル数に大きな差が生じるのは,森林限界を超える斜面では日射を遮る植生がないために表面岩温の日較差が大きいことが最大の原因であろう.

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