日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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河成段丘を用いて推定される内陸部の広域的地殻変動_-_現状と課題
*田力 正好
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p. 49

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抄録

1. はじめに 日本列島の海岸部には酸素同位体ステージ(MIS)5eの海成段丘が広く発達し,その高度から隆起量分布が明らかにされている.一方,内陸部においては,第四紀地殻変動研究グループ(1969)によって広域的な隆起量分布図が作成されている.この内陸部の隆起量は,侵蝕小起伏面の高度から求められているが,小起伏面の形成機構や年代が不明なため,信頼性の高いデータではない.その後,河成段丘を用いて内陸部の隆起量を推定する方法が提案され(吉山・柳田,1995など),いくつかの地域で隆起量が求められている.この方法は,同様の気候条件下では相似形の河床縦断形が形成されるという仮定をおき,それらの縦断形の比高を隆起量としている.本講演では,河成段丘を用いて内陸部の隆起量を推定した近年の研究例を紹介し,この方法に関わる問題点と今後の課題について述べる.2. 近年の研究成果 近年,河成段丘を用いて,ある程度広域的に内陸部の隆起量を求めた研究が北海道(幡谷ほか,2002),東北地方(田中ほか,1997;田力・池田,2004),関東地方(Tajikara,2000)などで行なわれている.これらの研究では,主として吉山・柳田(1995)のTT法(MIS 6と2の河成段丘の比高を用いる方法)が用いられている.これは,東北日本では氷期の堆積段丘が良く発達し,TT法が広範囲に適用可能であることを示している.田力・池田(2004)は,東北地方中部において,河成段丘を用いて隆起量(TT値)を求め,海成段丘のデータと第四紀層基底深度分布とを合わせて,過去10数万年間の隆起・沈降量とその分布を推定している.その結果から,東北地方中部の島弧と平行な地形配列は主に断層活動によって形成されてきたこと,島弧の水平短縮(+火山活動)によって地殻が厚化することにより東北日本弧全体が隆起してきたこと,等の可能性を示した.河成段丘を用いた隆起量の推定法は,不確定要素を多く含み誤差が大きいと考えられるので,高精度なデータを得ることは難しいが,ある程度広域的な地殻変動を概観するためには有効な方法と考えられる.3. 問題点と今後の課題(1)段丘面の対比 河成段丘を用いた隆起量推定法の第1の問題点は,段丘面,特にMIS 6段丘の対比の不確実性である.東北日本において研究例が増えてはいるが,確実にMIS 6に対比される段丘はそれほど多くはない.また,指標テフラを用いて段丘の年代を決定する際に,段丘堆積物とその被覆層中に欠落部があると,実際よりも若く段丘離水年代を見積もってしまう可能性がある(幡谷,2004).このような問題点に対しては,OSL法や表面照射法などの新しい年代測定法を用いること,テフラのみではなく段丘面の形態・段丘の分布状況・段丘堆積物の風化度や赤色化などから総合的に段丘の離水年代を判断すること,等が必要であろう.また,OSL法などの年代測定を用いる場合には,段丘堆積物とその被覆層の堆積過程を明らかにし,試料採取箇所の層位学的な位置づけを明確にする必要もあろう.(2)上流部の隆起量 河川の上流部では流量が減少するために,短期間では下刻速度<隆起速度となることが多いと予想される.このため,上流部では隆起量が過小評価されてしまう可能性が高いが,実際に隆起量が上流側へ減少している可能性もある.従来の方法では,これらの状態を区別することは出来ない.この問題点に対しては,どの程度上流側まで信頼できる隆起量が得られるのか?あるいは,どのような場合に河川が平衡状態(隆起と下刻が釣り合った定常状態)にあると言えるのか?といった点を明らかにする必要があると思われる.(3)西南日本では隆起量 これまでの研究例は中部地方以北の東北日本に偏っており,西南日本での研究例はほとんど無い.TT法は,“段丘の形成要因は地殻変動だけではなく,気候変動の寄与が大きい”という,主に東北日本で得られた観察結果に基づいている.しかし,西南日本では気候変動に起因する河床変動は小さいと予想され,東北日本のように氷期の堆積段丘が明瞭に形成されていない可能性がある.このような場合,海面変動の影響が及ばない中・上流域では,段丘形成の要因は主に地殻変動と考えることが出来る.従って,段丘の高度と年代から隆起量(速度)を求めることが可能になると思われる.

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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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