日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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高等専門学校からみた地理教育一貫カリキュラムのあり方
*日原 高志
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p. 17

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抄録

1. はじめに
 高等専門学校(高専)は中学卒業後の5年間一貫教育を行う高等教育機関である。教育内容は各教員が自らの教育・研究成果に基づき編成している。つまり、高校生相当の年齢の学生に高等学校学習指導要領に依拠しない地理教育を行っている教育機関である。本報告では、9年間の高専での実践経験に基づいて、高校地理教育を中心に地理教育の一貫性について考えを述べる。
2.高等専門学校での地理教育実践で考えたこと
_丸1_1学年地理における考査時の「ノート持込」の是非
着任時の本校の社会系科目では、多くの大学と同様に「ノート持込可」による考査が行なわれていた。これは「余計な暗記はノートに任せて、思考力・分析力を評価する」という理念に基づいている。9年勤務した高校から異動した演者はとまどったが、それに対応する考査問題を工夫して実施してきた。しかし、現実には「持込可だと、事前にほとんど勉強してこない」実態が露呈してきた。さらに、小中学校で独創性や自分の意見を述べることが重視されてきた「新学力観世代」になると、持込ノートの資料をほとんど参照・分析せずに独善的で的外れな論述解答をする学生が増えてきた。高等教育においてはレヴューワークを伴わない意見にオリジナリティーは認められない。しかし、地道なレヴューワークを怠って短絡的に「自分の意見」を述べる学生が増加している。この実態への対処として、考査時のノート持込を不可にして一定の暗記の強要を始めてみた。論述の内容と考査の平均点が向上したのは言うまでもない。「無味乾燥で、将来役に立たない、考査後すぐに忘れる知識の丸暗記に意味があるか?」という言説があるが、演者の現場感覚では、考査後すぐに忘れる知識の暗記の経験も、生涯学習においては重要な学習経験になると感じている。地道に網羅的に知識を覚える達成感と経験が、広範なレヴューワークを行う忍耐力の基礎となり、はじめてオリジナリティーのある「自分の考え」が述べられるのではないか? 演者は、生涯学習・情報化社会の到来によって、「見方・考え方の重要性」が増しているという主張には全く同意する。しかし、「見方・考え方」と「網羅的知識」を対立する2元論で論じてしまう学力観は、「暗記力の効用」を取りこぼしているように感じている。
_丸2_都立高専新教育課程検討の経験
本校では、中学校の教育課程改訂に合わせて新教育課程を編成した。ここでは入学生の知識量が減少するのに、出口の産業界は従来通りの卒業生を期待している、という現実に対応する方策が議論された。そして、とりわけ一般教養科目ではこれまでオール必修だったものを弾力化し、目的別(進路別)に選択科目を開設した。地理では、必修(2単位)の地理(1年)、選択(1単位)の自然地理_I_・_II_(3年)、地理学_I_・_II_(5年)を開設した。選択科目の_I_は就職希望者向けの教養科目、_II_は進学者や地理学に興味のある学生に対する発展科目と位置付けた。シラバスを編成する際、自ずと、前者は内容知が中心で地誌的・網羅的に扱う展開、後者は方法知が中心で系統地理的に見方・考え方を扱う展開となった。地理が好きな学生は両方を選択できる。
3. 地理教育一貫カリキュラム検討の視点
_丸1_暗記力の復権:「丸暗記」を到達点とする地名物産地理への復古を言っているのではない。水泳の級を伸ばそうと努力し、打算的な意味を考えずに暗記することを楽しめる年齢期に、課外活動的に実施する「地理検定」を作れないだろうか。その経験は地理を超えた学力全般に教育的効果をもたらすと考える。
_丸2_「初等_-_中等教育の系統性」から「義務教育_-_高校の系統性」へ:学習指導要領による一貫教育の内容は、文部科学省の分業体制のために「初等教育/中等教育」毎に系統性を有している。しかし、現場の実態からは、「(ほぼ)全員が上級学校に進学する義務教育/出口には進学と就職がある高校教育」に応じた一貫性を検討する必要がある。高校では必修的に履修させる科目以外に、目的(進路)に応じた科目が設定された学習指導要領が望まれる。

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