日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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流域単位による河川水利の定量的・空間的特性
那珂川流域と鬼怒・小貝川流域の比較研究
*山下 亜紀郎
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p. 20

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抄録

1.はじめに

 本発表の目的は、流域という地域単位による、農業用と都市用の両方を含めた総合的な河川水利の定量的・空間的特性を、水利権のデータを用いて分析することである。研究対象とするのは、互いに隣接し面積的にもほぼ等しい那珂川流域と鬼怒・小貝川流域である。

2.支流域単位による用途別総取水量

 那珂川流域では本流から取水する農業用水が最も多いものの、支流域にも取水口が分散している。下流域の茨城県においても、各支流域の河川水が農業用水として広く利用されている。鬼怒・小貝川流域では、農業水利権の総件数は那珂川流域と大差ないが、総取水量は約3倍に及ぶ。本流から取水するものの割合が高く、支流域としては、いくつかの限られた河川に水利権が集中して設定されている。

 那珂川流域における水道用水利権は、那珂川本流から最も多く取水されているが、7支流域でも水道用水利権が設定されている。一方、鬼怒・小貝川流域における水道用水利権は、那珂川流域と比べて、件数で約3分の1、取水量で3分の2である。取水口の分布は、鬼怒川上流域の支流域と鬼怒川本流に限定される。

3.特定水利権の取水口分布、取水量および水源の位置付け

 両流域とも特定水利権の大半を農業用が占める。それらの取水口の多くは、那珂川流域では、本流の上流域と下流域に分布している。鬼怒・小貝川流域では、上流域に特定水利権では比較的小規模なものが集中している。そして鬼怒川の中流に大規模な取水口が3か所みられる。小貝川では上・中流に小規模なものが分布し、下流に大規模なものがある。

 水道用の特定水利権は、那珂川流域で13件、鬼怒・小貝川流域で7件ある。それぞれの取水口の分布を比較すると、那珂川流域では下流域に多い。また、支流域にも小規模ながらいくつか存在する。鬼怒・小貝川流域においては、上・中流域に集中しており、下流域には1つも存在しない。また、大谷川以外の支流域にもほとんど存在しない。

 特定水利権の水源をみると、那珂川流域では、全34件のうち17件がダムなどに水源を求めている。水源となっているダムは5か所あるが、那珂川本流のダムは1か所のみである。権利取得年の年代別内訳では、1969年以前の16件のうち、3件がダムを水源としており、同様に1970年代が3件中1件、1980年代が6件中5件、1990年以降が9件中8件である。つまり、1980年以降に取得された特定水利権の8割以上がダムなどに依存している。一方、鬼怒・小貝川流域では、大谷川に設定されている特定水利権の水源は、いずれも河川自流である。その他の取水口の大半は鬼怒川と小貝川の本流に位置している。それらの内、工業用、水道用は全て新規の水資源開発によって権利が取得されたものである。また、1990年以降に下流で権利が取得された工業用水利権2件は、流域外に水源を求める霞ヶ浦用水に頼っている。

4.おわりに

 那珂川流域は上流域で農業用水利用が盛んであるが、本流への依存度は低い。したがって本流の中・下流には、農業用水に加えて都市用水も多く参入する余地がある。既得水利権の取水量は相対的に少なく、中規模な多目的ダムの開発が支流河川において現在に至るまでなされており、新規水需要も自流域内の水資源で充足できる。

 一方、鬼怒・小貝川流域では、上流域に都市用水利用がみられるが、中・下流域の河川水利用は大規模な既得農業水利権で占められている。また本流への依存度もきわめて高い。そのため河川水需給は限界に達している。農業・水道・工業用水源としての水資源開発は鬼怒川上流域の大規模なダムに限られる。したがって、下流域の都市用水需要は、自流域内の河川で満たされることができず、需要増に対して流域外の水源に頼らざるをえない。

 那珂川流域と鬼怒・小貝川流域は、互いに隣接し面積的にもほぼ等しいにもかかわらず、河川水利用にみられる定量的・空間的特性や水需給関係は大きく異なっている。

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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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