日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

南西中国・エルハイ湖における最終氷期極相以来の風成塵堆積の記録
*井上 伸夫北川 浩之
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 5

詳細
抄録

はじめに
古気候記録中に認識される、様々なイベント(最終氷期極相・ヤンガードリアス・完新世開始に伴う急激な温暖化など)の存在は古気候研究の大きなトピックの一つである。何故なら、気候変動期の環境反応のみならず、それらは大気・水循環間の相互作用を知る為の鍵の一つであるからである。
南西中国・雲南省において、Xingyun HuとQili Huの湖沼堆積物から復元された過去50,000年間の古気候は、氷期_-_間氷期のサイクルにおいて夏季・冬季モンスーン(インドモンスーン・東アジア冬季モンスーン)間の相互作用で特徴付けられるとしている(Hodell et al., 1999)。
しかし、南西中国の気候変動について十分な時間分解能をもった気候変動復元は行われていない。最終氷期_-_間氷期の移行期における急激な温暖化に伴うモンスーン変動など、100年程度の時間スケールの変動については明らかにされていない。氷期_-_間氷期の移行期を含む最終氷期以降の高時間分解能をもった気候変動復元は、南西中国の氷期_-_間氷期の移行期の気候変動や、この地域の気候と強く関係がある夏季・冬季モンスーン間の変動について新たな知見を与えると考えられる。
そこで本研究は、エルハイ湖の湖底堆積物からモンスーン変動によって変化すると考えられる風成塵の動態を調べる。風成塵は全体的なモイスチャーバランス、地表面安定度、植物カバーの度合に対して敏感であり、過去の大気循環の直接的な記録でもある(Muhs et al., 2003)。我々は風成塵の堆積量変動から南西中国における最終氷期極相以来の高時間分解能な気候変動復元を行い、夏季・冬季モンスーンの相互作用、特に氷期_-_間氷期の移行期の変動について検討する。
試料採取地および分析手法
 本研究に供した試料は中華人民共和国南西端に位置する雲南省西部エルハイ湖において採取された柱状試料である。
 分析には約10m長の柱状試料を供した。10m長のコアを1cm間隔にて切断を行い、それぞれについて化学的手法により有機物・無機物除去を試みた。機器測定には化学的処理後の試料を用いた。粒度分布測定には堀場製作所製のレーザ回折式粒度分析機LA-300を使用した。また年代測定結果を基に岩石起源物質の年堆積量割合(Lithogenic Flux)を算出した。得られた実験結果に基づき、Size-Partitioned Lithogenic Flux (SPLF)を算出した。SPLFは岩石起源物質のサイズ・堆積量を反映する指標である。
考察
我々は、(1)最終氷期間、(2)最終氷期と完新世の境界、の両期間の対比について考察を行った。
最終氷期:SPLFは、最終氷期間6.5-5.5Φ(11.04-22.09µm)サイズフラクション間に高い値を示す。様々な要因を勘案して、これは冬季モンスーンによって輸送された風成塵が主に6.5-5.5Φサイズフラクションに集中していたと結論付ける。
氷期_-_間氷期境界と初期完新世:氷期_-_間氷期境界におけるSPLFは、lithogenic flux、特に6.5-5.5Φサイズフラクションへのフラックスの急激な減少を示す。これは最終氷期間と比べて、冬季モンスーンの強度がより弱体化したことを暗示する。
またSPLF記録中にいくつかのイベントが認められる。それらのイベントは風成塵フラックス量と冬季モンスーンの強度と関連し、そしてグローバルな古気候イベントとの関係を示唆する。中国黄土高原における晩氷期モンスーンは部分的に北大西洋地域の気候推移とテレコネクションしている可能性が指摘されている(Heslop et al., 1999)。
結論
 堆積コアより過去18000年間の風成塵フラックスを見積もった。南西中国、エルハイ湖へのLithogenic Fluxは、最終氷期においては冬季モンスーン、完新世においては夏季モンスーンの活動に大きく作用されている。つまり夏季・冬季モンスーンの変動は南西中国の環境に大きく作用している。

著者関連情報
© 2004 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top