日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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沖積平野の形成過程における土砂貯留機能および炭素蓄積機能の評価
矢作川下流低地を事例として
*藤本 潔川瀬 久美子大平 明夫石塚 成宏志知 幸治安達 寛
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p. 17

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抄録

はじめに
沖積低地は後氷期の急激な海面上昇時に形成された内湾を徐々に埋積することによって形成された堆積地形である。本研究では、矢作川下流低地を事例として完新世の地形発達に伴い貯留された土砂量および炭素量を、各層序毎に絶対量(質量)として明らかにすることを目的とする。
沖積平野の埋積土砂量については、これまで「体積」として議論されることはあったものの、「質量」として捕らえられることはなかった。沖積層は、砂層、粘土層、泥炭層など多様な地層から構成される上、孔隙や間隙水を含んでおり、蓄積土砂量を各層序毎に定量的に比較するためには、これらを除いた質量として把握する必要がある。そのためには、不攪乱コアを深深度まで採取し、各層序の体積と共に、その容積重も明らかにしなければならない。各層序の体積は、ボーリング資料等で推定された各層序分布状況に基き、GIS3D解析ソフトを用いて推定する。
沖積低地は氷期・間氷期サイクルの中でみると、後氷期における一時的な物質蓄積の場として機能しており、地球規模の物質循環の中で何らかの重要な役割を担っているものと考えられる。しかし、沖積平野研究は、未だに地形発達史研究に留まっており、地球規模での物質循環の中での役割についての評価は何らなされていない。沖積平野の地形発達過程を地球環境変動に伴う受動的な変化として捕らえるばかりでなく、その過程で発揮されてきた炭素蓄積機能を評価することにより、地球環境変動に対して能動的に影響を与える環境要素として再評価することが可能となる。なお、本研究は平成13_から_15年度科学研究費補助金(基盤研究(A)(1)、課題番号:13308004、研究代表者:藤本 潔)によって実施した。
研究方法
1)既存ボーリング資料を収集する。
2)地表面高度、上部砂層上限高度、中部粘土層上限高度、中部粘土層下限高度、および下部砂層下限高度のデータベースをExcel上に作成する。
3)ArcView 3D Analystを用い、地表面および各層序境界のグリッドサーフェスモデルを作成し、切り盛り解析によって各層序の体積計算を行う。
4)2本の30m不撹乱コアから得られた各層序の容積重および炭素含有率を用い、各層序中の蓄積土砂量および蓄積炭素量を質量として算出する。
結果
計算対象面積92.1km2における各層序の体積は、後背湿地堆積物からなる最上部層が1.96×1083、上部砂層が7.16×1083、中部粘土層が6.73×1083、下部砂層が4.69×1083で、全土砂体積に占める割合は、それぞれ9.5%、34.9%、32.8%、22.9%であるのに対し、質量から見た堆積土砂量は、それぞれ9.2%、38.9%、25.8%、26.1%と、細粒堆積物からなる最上部層および中部粘土層で体積比より小さく、上部砂層および下部砂層で大きくなる。
蓄積炭素量は、それぞれ21.1%、5.7%、54.7%、18.5%で、体積比と比較すると、最上部層および中部粘土層で大きく、上部砂層および下部砂層で小さくなる。計算対象範囲内の蓄積炭素量は2.60×107tと見積もられた。これは人間活動による年間化石炭素放出量(5.7×109t)の約0.5%に達する。このことから、地球上の全沖積平野の堆積物中には、地球環境に何らかの影響を与えるに十分な量の炭素が閉じ込められている可能性が指摘できる。

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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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