日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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ネパールヒマラヤ,クンブ地域での過去30年間の山岳永久凍土の縮小
*福井 幸太郎藤井 理行上田 豊朝日 克彦
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p. 2

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抄録

1. はじめに
  近年,ネパールヒマラヤでは氷河の急速な後退や氷河湖の顕著な拡大が報告されており,これらの現象の背景には地球温暖化の影響があるとの指摘もある(例えば山田 2000).
 しかし,ネパールの高山地域では現時点で長期にわたる気象観測データがない.このため,ネパールヒマラヤでの気温上昇の実体は明らかになっていない(例えば上野 2001).
 そこで,筆者らはネパールヒマラヤ,クンブ地域で山岳永久凍土の下限高度の変化から最近30年間の年平均気温の変化を推定した.
2. 方法
 山岳永久凍土の下限高度の決定には50 cm深地温の高度による減率の変化から推定する方法を用いた(Fujii and Higuchi 1976).季節凍土帯では,50 cm深地温の高度による減率は気温減率に近似する.これに対して,永久凍土帯では,地下に冷源として凍土が存在するため,50 cm深地温の高度による減率は気温減率以上に大きくなる(Fujii and Higuchi 1976).このため,減率が大きく変化する高度から永久凍土の下限高度を推定することが出来る.
 1973年8月にクンブ地域の平坦から南向き斜面では,標高4500から5300 mにかけて50 cm深地温の観測が20ヶ所以上で実施され,永久凍土の下限高度は5200 mであると推定された(Fujii and Higuchi 1976).今回は2004年10月に標高4200から5600 mの平坦から南向き斜面20ヶ所で50 cm深地温の観測を行い,永久凍土の下限高度の推定を行った.
3. 結果
 2004年10月の標高5400から5500 m以下の50 cm深地温の減率は0.51゜C/100 mと気温減率に近いが,標高5400から5500 m以上のそれは2.5゜C/100 mと気温減率より著しく大きくなる.したがって,2004年の地温減率が大きく変化する標高は5400から5500 mであるといえる.1973年の50 cm深地温の減率が大きく変化する標高は5200 mであった.このことから地温の減率が大きく変化する標高は最近約30年間で200から300 m程上昇したといえる.
4. 考察
 地温減率が大きく変化する標高を永久凍土下限高度とみなすと2004年の永久凍土下限高度は標高5400から5500 mであり,1973-2004年の約30年間でこの地域の永久凍土下限高度は200-300 m上昇したといえる.この地域の気温減率は0.42゜C/100 mであることから,1973-2004年の年平均気温の上昇は0.8-1.2゜Cであると計算される.最近30年間の全球での年平均気温の上昇は0.3゜C前後であるので本地域の年平均気温の上昇速度は全球平均のそれと比較してかなり急激である可能性がある.

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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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