日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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黄河デルタ地域における地下水の鉛直化学プロファイルと地球化学過程
*齋藤 光代小野寺 真一宮岡 邦任重枝 豊実谷口 真人
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p. 212

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抄録
1. はじめに 中国・黄河の下流域では, 経済発展にともなう水利用の増大により, 1990年代より断流が頻繁に発生している。この黄河断流は, 河川流量の減少とそれに伴う栄養塩類の渤海湾への供給量減少, および黄河デルタ周辺の地下水の水質などに影響を与えていると考えられる。一方黄河デルタは, 河口の位置の変遷により堆積・侵食を繰り返しており, このような堆積環境の変化が地下水_-_河川水_-_海水相互作用に影響を与えていると考えられる。本研究は, 総合地球環境学研究所研究プロジェクト「近年の黄河の急激な水循環変化とその意味するもの」において, 黄河デルタ地域における地下水流動および地球化学過程を推定することを念頭に置き, デルタ地域の地下水の鉛直化学プロファイル特性を明らかにすることを目的とした。ここでは, 現地調査から得られた知見について報告する。2. 研究地域及び方法調査対象としたのは, 地表水量の低下が著しい黄河流域(75万km2)の沿岸部に位置する掘抜き井戸(計10地点)である(図1)。2004年9月に, 各井戸において地下水を深度別に採水し, 多項目水質計(SONDE model 6600; YSIナノテック社)を用いて地下水の水温, EC, DO, pHの鉛直プロファイルを測定した。また, 採水した試料水は実験室に持ち帰りHCO3-, NO3-, Cl-, SO42-, SiO2, DOC, DN濃度の定量分析を行った。3. 結果と考察3-1. 水質プロファイル図2に, 地点21, 29, S(図1)における地下水のEC鉛直プロファイルを示す。地点21は河川近傍に位置し, ECは地下水面から地下約16mまでの区間でほぼ一定であるが, 井戸の底面付近で上昇する傾向を示す。この結果から, 浅層の地下水は河川水の涵養の影響を受けており, 深層は上流側からの地下水流動の影響を受けていることが示唆される。また, 地点29は, 地点21と同様に比較的河川の近傍に位置し, ECは浅層で低く, 深度12m付近から急激に上昇している。この結果から, 深層の地下水は河川水の流入による影響を受けていることが示唆される。一方, 地点Sは観測地点のうち最も海側寄りに位置し, ECは井戸の深部でより高い傾向にあり, 特に地下水面から地下約10mまでの区間で急激に上昇している。この結果から, 浅層の地下水は地表水の涵養の影響を受けていることが示唆される。また, 黄河河口域の堆積構造として, 地下約10mより深部には氷期以前に形成された海成層が分布している(Chunting, et al., 1995)ことから, 深層には塩分濃度の高い地下水が存在していると考えられる。3-2. 溶存成分濃度プロファイル図3に, 地点Sにおける地下水面から地下約10mまでの溶存成分濃度プロファイルを示す。Cl-およびSO42-濃度は深層ほど高く, ECプロファイル(図2)は塩分濃度の鉛直変化を反映していることが分かる。また, SiO2濃度は深部ほど高濃度を示すことから, 深層には比較的滞留時間の長い地下水が存在していると考えられる。また, DOC濃度は深層でより高い傾向を示すことから, 黄河デルタ地域の比較的深層には有機物に富む堆積層が形成されており, その影響が地下水の水質に反映されていることが示唆される。
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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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