抄録
1.研究の背景2004年度の水害・地震災害では防災・災害対応・災害復旧の各段階での対応が不完全な部分があった。災害リスクを考えた場合、災害法制度の整備は震災が中心であり、水害に関する焦点が弱い。福井豪雨以降の研究では砂防工学的検証(野呂他 2004)、斜面地滑りの現地調査(黒川 2004)、足羽川上中流部での浸水深度の実測(広内・堀 2004)、水害防備林のスクリーニング機能評価(長尾 2004)、また土木学会では調査を継続しているものの(河川整備基金助成事業発表会 2004他)、法制度からの研究も必要である。本研究では水災害法制度の史的展開と運用面について2004年福井豪雨を中心にして水災害の予防・発生・復旧の各段階における政府の災害法政策、市町村の条例、民間の保険や自助努力などを多角的に検証し、法制度論で見落とされがちであった自然・環境的要素に焦点を当て制度を展望したい。2.調査目的と調査方法2004年福井豪雨について九頭竜川水系足羽川流域を調査対象地域として設定し、被災地域住民の被災状況・復旧過程の聞き取り、行政機関の対応を資料及び情報収集を行った。調査対象地は福井市市街地浸水地域、福井市一乗谷近辺浸水地域(安倍賀町周辺、浄教寺周辺)、美山町浸水地域(美山町役場周辺、市波地区周辺)である。3.調査結果_I_.水害地域の環境要因:福井市市街地の破提地点・春日地域、破提部から離れたみのり、月見地域の土地利用変化を見てみると明治_から_昭和の地形図から乾田が1960!)1980年に市街地として拡大し新興住宅地、住宅密集地に変遷しているが、聞き取りによると、これらの地域が水はけが悪く内水氾濫をしていた低湿地であった。_II_.ボランティア活動と行政との関わり:ボランティア団体は県外・県内からの参加があり、行政はボランティアの受付事務所を開設し、団体を受け付けて活動をサポートし作業状況を管理した。さらに作業現場には職員を派遣し作業内容を指示し炎暑の中で働くボランティアの健康管理を行なった。ボランティア活動を統括した福井県男女参画企画・県民活動での聞き取りでは阪神大震災での経験がモデルとなった組織形態を作った。 _III_.住民による自主防災水害に対処する自主防災組織は存在せず、総合災害対策の枠組みの中で組織されている。組織形態は地域差があるが福井市では大規模統合防災組織は存在していない。その背景には都市化の進展で近隣住民とのコミュニケーションが希薄となり地域にまとまりを欠くようになったこともある。一方、山間部の美山町では町内全域組織の大規模な防災団体があり定期的な訓練が行われていた。3.災害法規と福井水害に対する法制度運用_丸1_災害対策基本法と福井市防災計画:1995年阪神・淡路大震災以降、災害対策基本法は改正され防災対策関連の強化項目が設けられ地方公共団体では防災対策の充実も求められ、このような改正法案で福井県の防災計画も影響を受けている。_丸2_被災者の生活再建と法制度:1998(平成10)年「被災者生活再建支援法」では被災者救助だけでなく、復旧に対する援助までを盛り込んだ同法の制定は画期的ではあったが、現状その運用や規定に関し、様々に不備な点も見受けられる。福井県は今回の水害で独自の被災者支援条例を制定し、一定程度の効果を挙げた。_丸3_自主防災とボランティア活動:現在都市化の拡大と共に都市部の防災は行政に頼る住民意識が形成され組織率が低減し自主防災組織のプレゼンスが低下したが、阪神・淡路大震災以後、全国各地からのボランティア等、民間活動による防災活動の変化が見られる。