日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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新潟県中越地震による災害と地域特性
*山縣 耕太郎鈴木 郁夫志村 喬
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p. 22

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抄録

はじめに大規模な災害は,それぞれが独自の様相を呈するが,今回の新潟県中越地震(新潟県中越大震災)においても,あらたな災害の特徴が表出した.こうした災害の特徴は,中越地域の地域特性と強く結びついていると考えられる.ここでいう地域特性は,地震現象を含む自然的特性と,人文・社会的特性に大別することができる.中越地域に存在する様々な自然的特性と人文・社会的特性が相互に作用して,新潟県中越地震災害を形作ったといえるであろう.本報告では,中越地域の地域特性と災害との関わりを整理することによって,今回の災害の概要を提示したい.自然的特性2004年10月23日午後5時56分に発生した新潟県中越地震は,震源の深さ13km,マグニチュード6.8,最大震度は川口町で震度7を記録した.その後も活発な余震活動が継続し,被災者に大きな精神的ストレスを与えた.直下型地震で強い揺れが生じたため,震源付近では,甚大な斜面災害,および建物や,構造物への被害が発生している.一方で,多雪地域の耐雪建築構造が幸いして,全体的に見ると家屋被害は比較的小さかった.今回,斜面災害が集中した山地は,新第三紀の堆積岩が,第四紀に急速に隆起して形成されたものである.不安定な地形と,軟弱な地質が素因となり,さらに同年夏の豪雨を含めた先行降雨や,切り土,盛り土などの人為的な工事が影響して斜面災害が多発したものと考えられる.また,この地域は日本有数の地すべり地域であり,今回の地震でも地すべりが多発し,多数の土砂ダム(天然ダム)が形成された.中越地域は多雪地域であるため,今後も積雪による家屋の倒壊や,融雪による土砂災害の発生が懸念されている.人文・社会的特性被災地域の大部分は,いわゆる「中山間地」であるとともに豪雪地帯に指定され,人文・社会的には不利な条件を有した地域といえる.農村コミュニティの機能が維持されつつも人口減少・高齢化が進んでいる地域社会の実態と,自然的基盤に大きく依存した農業中心の産業実態を,人文・社会的特性としてあげることができる.全村避難となった山古志村の場合,人口は,2000年までの10年間で22.5%減少し,65歳以上人口(2000年)は34.6_%_(全国:17.3_%_;新潟県:21.3%),第一次産業の就業者率は28.7_%_(全国:5.0_%_,新潟県:7.3%)となっている.今回の地震による犠牲者40名のうち55_%_の22名が高齢者であった.これらの人文・社会的特性は,地震直後のコミュニティ内での救助活動や避難方法などで有効に機能した場面が見られた.しかし,今後の復興局面では,高齢者の自立や産業基盤である農地の復旧などに大きな課題を提起している.また,中越地域は,上越新幹線・関越自動車道が通る広域的交通の要であるとともに,全国的な工業生産システムに組み込まれた地域でもあった.このため,より広域的なスケールでの影響も表れている.こうした人文・社会的特性は,中越地域の地理的な位置,自然条件と強く結びついている.したがって,災害の全体像を把握するためには,自然,人文の両面を俯瞰する地理的な視点が不可欠である.災害はまだ終わっていない.中山間地で高齢者人口率の高い被災地域では,災害の影響が長く継続する可能性が高い.復興の行程もまだ始まったばかりである.今後も地理的な立場からのアプローチが必要とされるであろう.今回の地震は,インターネットや,高機能な携帯電話が一般化した高度情報化社会での出来事であった.その中で地図を中心とした地理情報の伝達性も大幅に向上し,様々な場面で活用された.一方で,面的な情報が適切に伝達されなかったために風評被害が問題化するなど,災害時に地理情報を適切に発信,活用していく上での課題も明らかになった.

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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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