日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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庄内地方における大規模稲作経営農家の形成過程と経営者の特性
山形県東田川郡藤島町を事例として
*斎藤 丈士
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p. 27

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抄録

1.はじめに
農業基本法に代表される戦後日本の農業構造政策の展開により,各農業部門で経営の大規模化が進行していった。他部門と異なり大規模化が進んでいないといわれている稲作部門ではあったが,農用地利用増進法(現:農業経営基盤強化促進法)が施行された1980年以降,全国的傾向として賃借権の設定による農地流動が推進されてきた。農地改革以降50数年を経て,各農家の経営耕地がどういう属性を持つ農家に集積していったのか,特に1980年代以降の農地流動化の推進により,農家間の格差が拡大していく中で,現在も専業的に経営を行っている農業者の特性とはいかなるものなのか。今後米政策改革が推進される過程で,いわゆる「中核的担い手」への経営集積を図る動きがみられることから,現在に至るまでの大規模農家の規模拡大プロセスと農家の特性を検討することは,今後のわが国の稲作農業の方向性を考える上で重要な研究視点のひとつであるといえる。本研究では,わが国を代表する稲作農業地帯である山形県の庄内地方における大規模稲作経営農家の形成過程に関して,庄内農業の中心地として発展してきた藤島町を事例に,1980年代以降に同町で進んだ農家の規模拡大プロセスを検討する。 併せて,同時期に形成された大規模農家の経営者が有する特性についても検討する。調査地区は,複数の大規模農家を抱え町内でも農業が盛んである東渡前・西渡前の両地区とした。

2.研究対象地域・山形県藤島町の概況
藤島町は,庄内平野の中央部に位置する平地農業地帯で,2002年の水稲収穫量は,16,800t(県内6位)である。同町内には広域農協の本所(JA庄内たがわ),庄内地方唯一の農業高校である県立庄内農業高等学校,山形県の現在の水稲主力品種である「はえぬき」を開発した県農業試験場庄内支場,庄内農業普及改良センター,JA全農庄内の米倉庫群があり,「庄内農業の中心地」として発展してきた。現在の町の農業施策は,エコタウンプロジェクトと構造政策の2本立てとなっている。2002年に「人と環境にやさしいまちづくり条例」を制定し,エコタウンプロジェクトを立ち上げた。さらに2004年4月からは町単独の「藤島町農産物認証事業(有機)」を開始した。これと併せて,町では認定農業者(現在256人)への農地集積を進めていて,米政策改革に対応するために地区ごとに地域営農改善計画(集落ビジョン)の策定を行い,農家の経営基盤の強化を図っている。

3. 東渡前・西渡前地区の農業経営の現況
 東渡前・西渡前地区の農家の多くは旧小作層に属しており,戦後の農地改革による払い下げの際に多数の自作農が形成された。同地区では田植機が導入される1960年代前半頃まで,集団作業によって農作業に従事してきたが,農業機械の導入が進む過程で,個人所有による機械化一貫体系が成立した。農用地利用増進法が施行された1980年以降,全町での傾向と同様に農地流動化を進めてきた。1970年代に3haから4haに位置していた現在の上位層は,地区内外の農地を取得もしくは賃借権の設定によって,経営規模を拡大していった。この過程で水田面積を大幅に拡大した農家(水田面積10ha以上)は,東渡前地区で4戸(農家数21戸),西渡前地区で1戸(同18戸)あり,現在稲作を主体として専業的に農業を行っている層がこれに該当する。こうした層では,「はえぬき」より高い収益が見込めるものの,適地ではないため栽培が難しいとされる「コシヒカリ」の栽培や,有機米の生産,省力化目的での直播栽培導入,卸への直接販売やネット直販といった経営を取り入れている。このほか,野菜(ねぎ・トマト)や花卉(菊・啓翁桜)の栽培が経営の中心となっている農家もあり,経営規模に応じた農業経営が展開されている。

4.大規模稲作農家の規模拡大プロセスと経営者の特性
水田面積10ha以上の大規模経営層における本分家関係をみると,本家にあたる農家もあれば,経営者の先代で分家し本家を上回る経営規模になった農家もあり,現経営者の世代が1970年代後半に経営を継承した後,階層分化が進行したとみられる。このほか,経営者に共通する点として,庄内農業高校の卒業生であることが認められる。町内の認定農業者の半数以上が同校卒業生であり,農業高校への進学は営農に対して少なからぬ意味を持つと考えられる。農家によっては,経営者(同校OB)の子弟も同校に通う場合もみられた。 経営者に対する社会的な評価をみた場合,地域の農業マスコミが主催する良質米競技会にて複数回優勝した経営者や,全国規模の食味分析鑑定コンクールでの受賞暦がある経営者もあり,その技術水準は高いとみられる。 本発表では,経営者個人への聞き取り調査の結果を基に,所属する組織や団体との関係,経営の課題について報告する。

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