日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

ハザードマップを地域の防災力向上へ結びつける
*岡本 耕平大西 宏治廣内 大助
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 37

詳細
抄録

1. はじめに 名古屋市は2003年に天白川洪水ハザードマップおよび庄内川・新川洪水ハザードマップを流域の全世帯に配布した。これらの河川の流域は2000年9月の東海豪雨によって内水・外水氾濫が発生し、広範囲にわたって多大な被害を被った。 発表者らは、天白川流域の市民団体および行政当局と共同で「生涯学習のための災害・防災学習カリキュラム開発委員会」を組織し、地域防災力の向上をめざした市民参加型のまちづくり活動を行ってきた。活動の一環として2004年12月には、公開講座『地図から災害を考える、地図を生かす。』を開催した。本発表では、この公開講座の概要を報告するとともに、こうした活動などから得た知見をもとに、洪水ハザードマップを地域防災力の向上に生かす際の問題点を抽出し、改善の方策を探る。2. 公開講座『地図から災害を考える、地図を生かす。』の概要 公開講座では、海津正倫・名大教授による「生活空間の土地条件と水害」と題する講演の後、市民を対象とした3つのワークショップを行った。<1> 新旧の地形図を比較して、水害危険度を考える<2> ハザードマップの中に自宅を見つける<3> Myハザードマップを作り、活用する3. ハザードマップ活用の問題点と課題 問題点の第1は、多くの人がハザードマップの存在を知らないということである。先のワークショップの参加者は概して防災への関心が高かったにもかかわらず、ハザードマップが配布されていたことを知らない人が多数いた。また、配布されたことは知っていても、手にした経験がないという人も少なからずいた。  第2に、ハザードマップが読めない、あるいは読みにくい、という問題である。行政が作るハザードマップには、少数の公共施設しか記されておらず、位置関係を把握しにくい。その解決策の一つが、コンビニや友人宅など、自分なりのランドマークをハザードマップに書き加えることである。また、拡大コピーして見やすい縮尺にしてもよい。さらに、こうしたナヴィゲーション用のランドマークのみならず、例えば、豪雨時に危険になりそうな側溝の位置や、避難できそうな中層以上の建物の位置を書き加えると、Myハザードマップとして、より有用なものになる。そして、こうした情報を学区などの地域で共有できれば、地域防災力は高まるであろう。 第3に、ハザードマップの活用方法がわからないという問題である。洪水ハザードマップには、浸水想定域のほか、避難の仕方や地下鉄駅の浸水可能性など、様々な情報が記されているが、これらが読まれることは希である。これらの情報を生かす方法の一つが、ワークショップでも試みたDIGである。DIGを行うことによって、平面の地図から得られる情報(プラン)が原寸大の光景(シーン)と結びついて、災害時の行動をよりリアルに想定できる。しかし、DIGを効果的に行うためには、ある程度のスキルが必要である。参加者からは「ここで教わったことを地域に持ち帰って皆に教えるにはどうしたらよいか」という声が聞かれた。市民のための防災教育カリキュラムの開発と、そのテキスト化が必要である。 第4は、ハザードマップの限界にかかわる問題である。1)水害や地震など、異なる災害のハザードマップが別々に存在する。2)洪水ハザードマップは、特定の河川を対象につくられる。したがって、図幅内で浸水想定域に含まれない地域がすべて安全だとは限らない。3)洪水ハザードマップは、あくまで作成時点の状況を示したものである。例えば、天白川では、上流の日進市の土地利用が今後大きく変化する可能性があるが、そうなれば、ハザードの可能性も大きく変化する。 第4の問題点に対処するためには、地形図学習を含めた、より一般的な地図教育が市民になされる必要がある。ワークショップで示されたように、市民は地形図学習を嫌ってはいない。結局、地域防災力の向上にとって重要なのは、地図学習をいかに市民に身近なものとするかである。

著者関連情報
© 2005 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top