日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
会議情報

キルギス共和国北部における家畜市場について
*梶浦 岳
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 87

詳細
抄録

1.はじめに ソ連崩壊後の市場経済を導入した中央アジア5ヶ国の中で最小面積のキルギス共和国(以下キルギス)は,天然資源に乏しいためGDPは低く,農牧業の割合が高い.近年,キルギスでは,ヒツジ,ウシ,ウマなどの家畜が金銭と同様に重要な財産として位置付けられており,家畜市場での取引量が高まってきている.キルギス経済の中でも家畜の取引は日常茶飯事におこなわれており,キルギス経済の一端を担う重要な項目である. 本研究では,キルギスにおける家畜市場の実態を把握するため,いくつかの家畜市場を取りあげ,それぞれの特徴を比較検討することによって,この国における家畜市場の役割を考察した.現地調査は2004年7_から_8月に通訳を伴い,ビシュケク,カント,トクモク,キズルスゥ,カラコルの5つの家畜市場で実施した.2.家畜市場の分布とトクモク家畜市場の成立 今回確認できた家畜市場は6つ,このうちナリン州のアトバシ家畜市場以外の5つで調査をおこなった.この5つの家畜市場は,チュイ州の3つ(ビシュケク,カント,トクモク),イシク・クル州の2つ(カラコル,キズルスゥ)である. 聞き取り調査の中で,最もキルギス人に認知されているのがトクモク家畜市場である.この市場は,首都ビシュケクより東へ約60 km のトクモク市にあり,1995年にカザフスタン共和国(以下カザフ)からの出資により設立された.トクモク市はカザフとの国境に面しており,市場は国境ゲートまで100 mほどの幹線道路沿いに立地している.キルギスはカザフよりも経済的に劣勢であり,裕福なカザフ人は週末になると国境を越えて家畜の買い付けにやってくる.この経済的格差により,この市場には国境を越えて多くの買い手が集まるため,キルギス全土からも多くの売り手が集まってくる.3.家畜市場の売買方法 家畜市場は毎週土日に開催される.これらの家畜市場は周囲を塀で囲まれ,不正な取引を防止している.乗用車やトラックで家畜を運んできた家畜の売り手は,まず入口の門で家畜の種類・数によって,所定の金額を払い,その証明書を貰う.そして囲いの中で,自由な場所に家畜と共に立つ.買い手は家畜の傍に立つ売り手に値段を尋ね,価格交渉が成立すると家畜をその場で連れて帰る.ほとんどが仲買人を通さず,個人売買が主流となっている.4.考察 家畜市場は,立地要因から次の2つに分けることができる.1)幹線道路沿いといった交通の利便性のある市場,2)中心都市があり,その郊外に広大な土地をもつ市場である.前者の幹線道路沿いにある家畜市場には,カント,トクモク,キズルスゥといった家畜市場が挙げられる.後者の家畜市場では,ビシュケク,カラコルという需要をもつ核となる町が存在する. 市場経済導入後,家畜の売買は国境を越えて自由におこなわれているため,家畜市場では相互利益の出るシステムを構築している.特にトクモク家畜市場には100 km以上の遠距離から多様な手段で牧畜民が家畜を運んでくる.カザフの出資元により,家畜市場は幹線道路沿い,国境沿いに立地され,輸送費が遠距離からでもより安価になるような家畜流通体系が構築されている.さらに,家畜市場を通じて,様々な地域から人々が集まり,人の流れが変化しているといえる.キルギスとカザフは家畜市場によって密接に繋がっており,キルギスの家畜市場は,カザフという巨大需要によって支えられている.

著者関連情報
© 2005 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top