日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S607
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イギリスにおけるサスティナブルな小売開発
ノッティンガム市の事例
*根田 克彦
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抄録

 イングランドでは,基本的に開発を個別に審査するが,開発許可を決定する主体は日本の市町村に相当する地方自治体である.開発許可の判断基準として客観的根拠を与えるものは,開発計画である(中井・村木 1998,pp.35-36).イングランドにおける開発計画は,地方自治体レベルと,より広域的範囲である地域レベルで策定される.地方自治体が策定する開発計画は,当該自治体が属する地域レベルで策定される開発計画の方針と一致する必要があり,また,国が承認する必要がある.
 都市計画に関する政府の方針を示す文書として重要なものは,計画政策指針(PPS)であり,これは都市計画のさまざまな対象ごとに作成されておる.小売業の開発に関わるものは,計画政策指針6(PPS6):「タウンセンターのための開発」である(Office of the Deputy Prime Minister,2005).PPSの内容はそれぞれごとに異なるが,基本的原理は共通している.それは,イングランドの都市計画全体で目標となっている,サスティナブルな開発の原理に従うことである.
 PPS6で対象とするタウンセンターとは,中心市街地ばかりではなく,それらと周辺商業地を含む,ある一定規模以上の小売商業地を指す.それら小売商業地は,シティセンターもしくはタウンセンターを頂点として,その下位階層としてディストリクトセンター,ローカルセンターに区分される.PPS6では,中心市街地ばかりではなく小売商業地全体が保護され,それら以外の場所での小売開発が抑制される.また,小売商業地の階層構造も維持されることが必要であり,そのため,上位階層センターに開発が集中しないよう配慮する一方,下位階層には過剰に大きい開発がなされないよう,既存の小売商業地の階層構造全体のバランスを保つことが必要とされる(根田,2006). なお,階層の変更は,開発計画をとおしてなされる.
 既存の小売商業地に小売開発を誘導し,それ以外の場所で開発を抑制する理由は,それがサスティナブルな開発原理に従うからである.サスティナブルな開発では,万人の必要性を斟酌した社会進歩,環境の効果的保護,資源の慎重な利用,高く安定的な経済成長と雇用レベルの維持が目標とされる.既存の小売商業地は一般に公共交通機関の焦点であるか,市街地の住宅地から徒歩でアクセスが可能な位置にある.それらを維持・強化することは,徒歩と公共交通機関の利用を促進することにより自家用車の利用を抑制し,既存の都市インフラストラクチャを有効利用することにより市街地の拡大を防ぎ,交通弱者に配慮した買物機会の配置を実現することになる.それらのことによりサスティナブルな開発目標を実現できるのである.
 ノッティンガム市はイースト・ミッドランズ地域の主要都市である.ノッティンガム市の人口は266,988人(2001年センサス)であり,1991年から4.9%減少している.
 ノッティンガム市の開発計画は,2005年に刊行されたローカルプランである(City of Nottingham 2005).ローカルプランでは,ノッティンガム市の中心市街地であるシティセンター,4地区のタウンセンター(PPS6におけるディストリクトセンターに相当),ローカルセンターからなる3階層が設定されている.
 ローカルプランでは,ノッティンガム市の中心市街地が,経済・観光の重要拠点として位置づけられ,その役割を維持・強化することが示されている.一方,タウンセンターは,サスティナブルなコミュニティの核として位置づけられ,周辺住民の日常生活を支える拠点としての役割を維持・強化することが示されている.このように,ローカルプランでは,中心市街地とタウンセンターの機能を明瞭に区別し,その商圏規模に応じた開発が望まれるとしている.
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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