日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 306
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「災害の記憶」と郷土学習
*相澤 亮太郎
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抄録


 濃尾平野を流れる木曽川・長良川・揖斐川が流下する木曽三川地域は輪中地帯として知られ、水と闘ってきた歴史を持つ地域である。流域全体としては堤防の強化や動力排水の整備、埋立て等によって、洪水の回数は減少しているものの、1959年伊勢湾台風、1976年9.12水害、2000年東海水害など、戦後から現在に至るまで大規模な水害がたびたび発生している地域でもある。2001年の水防法改正以後、当該地域の自治体でも洪水ハザードマップが作成されるなど、住民の防災意識を高める取り組みが行われている。またハザードマップ以外にも、地域の災害を学び防災意識を高める方法が模索されており、たとえば『防災白書』(平成17年版)においては、小学校の「総合的な学習の時間」の実施において地域特性に応じ、防災をテーマとする取り組みが展開されることが望まれる」等と示され、学校教育における防災教育の可能性が期待されている。その点に関連して、日本地理学会も2004年に、地震被害に関してではあるが「ハザードマップを活用した地震被害軽減の推進に関する提言」として、「災害発生の場となる郷土の地域性を正しく理解した体系的防災教育」の重要性を訴えている。
 地域の災害を学ぶための教材として、社会科副読本や道徳副読本、安全副読本等が作成され、近年ではweb上のコンテンツの充実化も見られる。副読本の中でも、とりわけ社会科副読本は、定期的な改訂の度に地域の変化を反映させるなど、地域特性を踏まえた災害イメージや防災意識を培う重要な要素となり得る。しかし、たとえば災害をめぐる地域間の対立や悲惨さを含む災害の記述、行政区域のスケールに一致しない内容等は社会科副読本には盛り込まれない傾向があり、副読本において紹介される災害記述の特性に配慮する必要がある。輪中地域として知られる木曽三川地域では、輪中間の対立の歴史を持つケースも多く、そうした歴史的背景や水害要因に配慮しながら、社会科副読本の内容が取捨選択されることとなる。また国や県などから学習指導要領等を通じて提示される「共通の災害知識」と、ローカルな災害特性を兼ね備えた内容である必要もある。そのような過程を経て副読本に記述された地域の災害が、学習者に「災害の記憶」として継承されることとなり、郷土認識の一部を担うこととなる。ところが、同一河川の流域や同時に発生した水害であっても、それぞれの地域ごとの判断によって異なる「災害の記憶」として副読本に示されることがある。防災教育の一環として地域の災害を学ぶことへの関心が高まる中、「災害の記憶」を含む郷土認識の多様性や地域的差異がどのような状況にあり、郷土学習と防災教育がどのような関係を取り結ぼうとしているのかを明らかにする必要がある。そこで本発表では、愛知県及び岐阜県の木曽三川流域の各自治体における副読本に記載された災害記述を比較しながら、その差異や背景を分析し、報告したい。

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