日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 412
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南アルプス南部,赤石岳周辺の氷河地形
*小久保 裕介長谷川 裕彦増沢 武弘
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抄録

1.はじめに
 南アルプス南部ではKobayashi(1958),五百沢(1979)などによって氷河地形の存在が報告されてきた.最近では長谷川ほか(2006),長谷川ほか(2007)などによって現地調査に基づく詳細な研究が行われている.今まで氷河地形の詳細な研究があまり行われてこなかった南アルプス南部において,氷河地形発達史を明らかにするためには,多くの地域で氷河地形の分布を明らかにする必要がある.本研究では赤石岳周辺において,空中写真判読と現地調査に基づいて氷河地形の分布を明らかにすることを目的とする.
2.現地調査結果
 赤石岳東面,赤石沢北沢において調査を行った.北沢の河床高度2900 m付近より上流はカール地形を呈しており,二つのカールが認められる(図1).本研究では,赤石岳北東のものを赤石岳東カール,小赤石岳南東のものを小赤石カールと呼ぶ.標高2600 m付近から2900 m付近ではU字形の横断形を持つ谷となっている.2600 m付近より下流では谷幅は狭まるが,U字形の横断形をした谷が標高2300 m付近まで続く.
 小赤石カール下方の標高2780 m付近の右岸(地点1)には,縦4 m,横2 mの丸く研磨された基盤岩が見られ,この表面には幅3~10 cm,深さ1~2 cmの浅い溝が谷の向きと平行に存在する.
 赤石岳東カールには,カール底を塞ぐように両岸にリッジが存在する.リッジを構成する堆積物は,最大礫径200 cm,平均礫径50 cmの亜角礫層からなる.また,カール底下方の急斜面左岸側にも,谷を塞ぐように下流へ向かって伸びるリッジが二列存在する.細礫混じりの砂をマトリックスとする,平均礫径20~60 cmの無層理・無淘汰の角礫層からなる.小赤石カールでは,標高2900 m,2850 m,2750 m,2710 m付近に堆積物からなるリッジが4列存在する.最上部のリッジの構成層は,細礫混じりの砂をマトリックスとし,礫径20~50 cmの角礫を多く含む堆積物からなり,その他のリッジも同様の層相を示す.北沢の標高2400 m付近右岸側には,本流に沿う形をしたリッジが存在し,無層理,無淘汰な堆積物によって構成されている.
3.氷河地形の分布
 赤石岳東カール付近のリッジ,小赤石カールに分布するリッジ,標高2400 m付近右岸側のリッジは,堆積物の層相や地形的特徴から土石流や地すべりによる堆積物とは考えられず,モレーンと判断できる.赤石岳東カールのモレーンを上流側から,Ae-1,Ae-2,Ae-3,小赤石カールのモレーンを上流側から,Ko-1,Ko-2,Ko-3,Ko-4と呼ぶことにする.
 地点1の研磨された基盤岩はかつて氷河底であったと考えられる場所にあり,溝の走向は岩石の組織とは無関係であり,推定される氷河の流下方向と一致している.これらのことから,基盤岩を鯨背岩,溝を条痕であると判断した.
 標高2630 m付近左岸の支沢に露頭がある(地点2).露頭下部には,層厚1 m前後,砂と粘土をマトリックスとし,礫径1~50 cmの角礫・亜角礫を含むコンパクトな堆積物があり,基盤を直接覆っている.同様の堆積物は,現河床高度2600 m付近から2800 m付近までの河床沿いや,登山道沿いで見ることができる.この堆積物は谷壁斜面の基盤に張り付くように堆積していること,河成堆積物や土石流堆積物とは明らかに層相が異なること,周囲に地すべり地形が分布しないことなどから,氷河底で堆積した氷河底ティルであると判断される.
4.モレーン形成期の推定
 赤石岳東カールAe-1上(地点3),小赤石カールのKo-1上(地点4)での風化皮膜厚の測定結果の平均値はそれぞれ1.3 mmと1.4 mmとなり類似した値を示し, Ae-1とKo-1はほぼ同時期に形成されたと考えられる.これらの風化皮膜厚は荒川三山南面に分布する荒川岳期3のモレーンの風化皮膜厚(長谷川ほか,2006)と同様の値を示す.荒川岳期3は晩氷期に対比されることから, Ae-1とKo-1の形成期は晩氷期に対比される可能性が高い.今後は,北沢の標高2400mより下流と,赤石岳西面の本岳沢でも調査を行う予定である.
参考文献

 五百沢智也(1979):『鳥瞰図譜・日本アルプス』講談社,190p.
 Kobayashi,K.(1958):Quaternary glaciation of the Japan alps. Journal of Faculty of Liberal Arts and Science. Shinshu University, 8:13-67.
 長谷川裕彦・佐々木明彦・増沢武弘・加藤健一(2006):南アルプス,荒川三山南面カール群の地形発達.季刊地理学,58,44-45.
 長谷川裕彦・佐々木明彦・増沢武弘(2007):南アルプス南部,悪沢岳北面魚無沢における第四紀後期の氷河作用.日本地理学会発表要旨集,71,126.
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