日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 711
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近年の日本における都市部と農村部の気温変化傾向の相違について
*西森 基貴桑形 恒男石郷岡 康史村上 雅則
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抄録


 日本における1898-2004年の年平均気温の長期変化傾向は1.06±0.25℃/100年の上昇となっている(気象庁:異常気象レポート2005)。これは同期間における世界平均0.77℃/100年の上昇を上回っており,いわゆる地球温暖化が日本では既に顕在化し,その影響評価と適応・対策が急務とされる根拠となっている。しかしながら近藤(http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/:以降では近藤HP)は,日本や世界のこれら気温変化値は観測所周辺の都市化影響と露場の陽だまり効果により過大評価であるとしている。気温の永年変化傾向を算出する際に都市影響を除去することは通例で,気象庁は日本の平均気温の算出に当たり,統計切断がなく都市化影響もないと判断した気象官署17地点を用いている。ただ実際,測定場付近に建造物などがほとんどない農業研究圃場のデータ解析からは,近年でも気温上昇が起こっていないとの指摘もある(鮫島ほか2005:農業環境工学関連7学会合同大会)。これまでコメ生産など日本農業におよぼす温暖化影響が研究されてきたが,農耕地・農村において現在までも気温上昇がないとすると,温暖化影響研究にもさらなる改善が求められる。そこで本研究では日本の主に農耕地における気温変化の実態を明らかにするため,都市部/農村部における変化傾向の相違の比較から,現状用いられる観測気温データに含まれる都市影響を詳細に見積もることとする。
 用いたデータは,気象庁が編集した上記17地点をはじめとした山岳観測点を含む気象官署,比較的農村部に多いアメダス観測点,および明らかに農耕地またはそれに類する所で測定されている北海道や九州など各地方の農業研究センターの圃場データを用いた。気象庁データについては,気象庁自身の統計の接続可否の判断にとどまらず,近藤HPの現地調査報告や高解像度衛星画像(グーグルマップ)を利用した測定地点近辺の状況を調査した。また農業研究センターの圃場データについても,測定地点の移動や測器の更新データも詳細に検討した。解析は主に時系列作成と,線形トレンド解析を行った。解析対象期間は主にアメダスデータを利用可能な近年の1980年以降であるが,都市影響の定量化のための対比データがある場合には長期(1950年頃以降)の解析も行った。
 図1上には,人口約67万人の熊本市にある熊本(地方気象台)および九州沖縄農業研究センターのある西合志(合志市:熊本市の北約20km)の2地点間の長期(1952-2004年)気温差のトレンドを月毎に示す。いずれの結果も熊本と西合志の気温差のトレンドは正であり,2地点間の気温差は拡大していることを示す。そのトレンドを季節別に見ると,冬季に大きく夏季に小さいほか,最低気温のトレンドが最高気温に比べて大きい。これは典型的な都市気候の季節変化パターン(例えば日下・西森ほか(1998):天気45)を表し,熊本地方気象台の気温データには明らかに都市の影響が含まれていることを示す。さらに1980年以降では,両地点の年平均気温にはともに正のトレンドが見られるものの,2地点間の差は拡大傾向にある(図1下)。図には示さないが要素別・月別に見ると,この気温差トレンドは最高気温≧最低気温であり,かつ夏季に大きくなっている。近年,都市部において夏の異常な暑さが問題になっていることから,異なる2期間のトレンド傾向の相違もまた熊本のデータに都市の影響が含まれていることを示す。
 日本の農耕地における気温変化傾向の実態を把握するため,気温の長期/近年の変化傾向を,主に都市部と農村部における比較を通じて解析した。その結果ここでは,都市部に多い気象官署の中でも中規模都市にある熊本に明らかな都市効果が見られることを示した。このほか日本を代表するとされる気象官署17地点のうち,彦根にはなおも都市気候の影響が疑われること,逆に伏木や水戸は近隣地点と比較してデータが比較的良質と言えることもわかった。さらにアメダス地点の解析から,1980年以降は農村部においても,平均的には気温の上昇トレンドは見られるが,北海道札幌郊外の羊ヶ丘のように1960年代頃からでは上昇トレンドが見られない地点もあり,日本における地域性という観点では,さらに検討が必要であることがわかった。

*本研究は,農業環境技術研究所法人プロジェクト研究「日本における近年の気温変化に及ぼす都市気象の影響の解明」の一環として行われたものである。西合志の気温データは,九州沖縄農業研究センターの大場和彦氏・丸山篤志氏に提供いただいた。また本研究で使用したデータセットの整備に際しては,当所契約研究員の内海美砂子氏の支援を頂いた。ここに記して,感謝する次第である。

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