日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 727
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レソト山岳地における自然環境の多様性と土地利用
*長倉 美予
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抄録


 山岳地の自然環境は、標高・斜面方位による気候の違いや、侵食によって生じる大・小地形の存在など、多様性に富んでいる。その一方で、急傾斜や低気温、多量の積雪など、人の生業や土地利用に対して制約となる要因を抱えている。山岳地の人々は、そうした低地とは異なる自然環境に様々な方法で対応し、独自の土地利用形態を築いてきた。本研究の目的は、山岳地における多様な自然環境の特徴を明らかにし、それらが土地利用とどのような関係にあるのかを考察することである。
 調査は南部アフリカのレソト王国の山村で2005年9月から2006年2月にかけて実施した。調査方法は、地形測量や気温観測をはじめとする自然環境の定量的な計測および、村の全64世帯を対象とした聞き取りである。
 調査の結果、村周辺の地形は標高2900mの山頂から2400mの谷底まで続く斜面があり、標高約2500mの等高線に沿って緩斜面が広がっていた。傾斜と土壌(地表面から基盤までの堆積物)の層厚を指標とし、地形面を標高の低い順に「谷底」、「谷斜面」、「段丘崖」、「段丘面」、「崖錐」、「山地斜面」と区分した。気温は、地形面ごとに最高・最低・平均気温に差異がみられ、それらは標高だけでなく傾斜や地表面の状態によっても特徴づけられていた。さらに、夜間に谷に冷気湖の発生が確認された。聞き取りの結果、住民の主な生業は農耕と牧畜であり、農耕ではムギ、トウモロコシなどの自給用作物と、キャベツ、ジャガイモなどの商品用作物を栽培していた。家畜はヒツジやヤギなどが飼養されており、羊毛や山羊毛が収入源となっていた。
 以上の結果から、自然環境と土地利用の関係を分析した。耕地には土壌層が厚い谷斜面と崖錐が利用されており、気温の差異に応じてそれぞれの耕地では栽培作物に違いがみられた。放牧には主に土壌層が薄く、気温の日較差が大きい場所が利用されていた。居住地には、放牧地である山地斜面と、耕地である崖錐の、2つの地形面が接する約2600mの等高線上が利用されていた。この地点は両生業空間にアクセスがよいうえ、傾斜変換点であるため湧水が多く見られ水利用の便がよい。また、冷気湖の上限より上方に位置するため、夜間の冷え込みが少ない地点でもあった。
 以上より、調査村の自然環境の多様性が実証的に示された。また土地利用は、農耕と牧畜という住民の主要な生業形態とともに、自然環境との間に密接な相関関係があることが示された。居住地の立地場所が、比較的過ごしやすい気候条件をそろえていたことが立地の決定要因であったのかは、住人の自然環境認識を分析しないと明らかではない。今後は、インタビューなどから住民が認識する「自然環境」を抽出し、それらが今回対象とした定量的データで抽出された自然環境とどう対応しているのかを分析する必要がある。

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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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