日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 428
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日本における文化産業の成長動向
*半澤 誠司
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抄録


I.はじめに
 文化産業の定義は,必ずしも厳密ではない上に,産業分類の枠組みに当てはまらないものも多く,公的統計資料から文化産業の動態を把握することには困難が伴う.この事情は諸外国でも同様であるが,一定の研究蓄積がある.そこでは,いわゆるコンテンツ産業に対応するものに限らず,製造業や観光などのサービス業も含めて文化産業と捉える見方が一般的であり,広範な全体動向把握が進んでいる.そして,都市への集中と雇用成長への寄与が明らかにされている.統計制度の違いなど種々の制約があるとはいえ,比較研究の視点からいえば,諸外国の研究に対応するものが日本に存在しないのは問題である.
 本発表では,地理的視点を踏まえつつ,既存統計を用いて,日本における広義の文化産業の成長推移把握を試みる.なお,製造業,サービス業,コンテンツ産業の3分野に文化産業を分類する.
II.文化産業の市場規模
 余暇市場規模を用いて,文化産業の市場規模を確認すると,1995年度をピークに,絶対値も国民総支出に占める割合も減少に転じており(90兆5千億円,18.6%→2004年度81兆3千億円,16.1%),日本の文化産業関連支出は減少傾向にある.また,ギャンブル関連の支出が日本の余暇市場に占める割合が際立って高く(2004年度44.3%),なおかつパチンコ支出の割合が増加傾向を示す(同36.3%).一方,文化産業の中でも芸術やコンテンツに近い分野である,趣味・創作分野とゲーム関連支出は,最盛期よりも減少しているものの,一時期の底は脱し,全体に占める割合はむしろ上昇している(1995年度12兆8千億円,14.1%→2004年度12兆7千億円,15.6%).
 日本では,可処分所得の多くがギャンブル支出に回されており,必ずしも文化的活動への支出が高くない上に,成長傾向とまではいえない.ところが,メディアコンテンツ関係に限定した市場規模は近年堅調に推移しており,対象産業や推計方法の違いもあるにせよ,製造業やサービス業に近い文化産業分野とは異なる傾向を示す.
III.文化産業の雇用者数
 文化産業における雇用者数の各県別対全国シェアをみると,東京都が全産業における雇用者数シェアを大幅に超える数値を示しており(2001年度全産業14.3%,文化産業18.8%),東京都への集積傾向は文化産業により顕著である.しかも,一時期は集積が緩和されたにもかかわらず,再集中が確認できる.
 文化産業の中でもコンテンツ産業の集積傾向は,製造業やサービス業よりも際立っている(2001年度に東京都が占める割合,製造業17.2%,サービス業14.2%,コンテンツ産業47.2%).特に,近年はコンテンツ産業以外の文化産業の雇用者数は減少しているのに対して(2001年度/1996年度伸び率,製造業-26.9%,サービス業-9.1%),コンテンツ産業のそれは大幅に増加している(同25.2%).
IV.おわりに
 諸外国の研究にみられるように,文化産業が成長基調にあるとは一概にはいえない.しかし,他の文化産業よりも都市に引き付けられる性質を持つコンテンツ産業だけは堅調に成長している.文化産業の中でも最も創造性を必要とするコンテンツ産業にとって,都市の持つ創造性が有効に働いていると考えられる.

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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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