日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 520
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観光レクリエーション空間における人々の行動と観光体験の変化
多摩動物公園を事例に
*有馬 貴之
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抄録


 本研究の目的は観光レクリエーション空間における人々の行動と観光体験の変化の過程を明らかにすることである。研究対象地は、人々の行動を把握することが容易な観光レクリエーション空間である多摩動物公園を選定した。調査はGPS調査とアンケート調査によって行った。GPS調査とは無作為に抽出した来園者に対し、入園時にGPS端末を携帯してもらい、退園時に回収するものである。アンケート調査では園内での移動ルートや指定したアトラクション(動物展示)に対する満足度(5段階)評価などの項目を設けた。
 本研究ではまず来園者の移動ルートを5つの移動パターンに分類した。その後、ArcGIS上で補正処理を行ったGPSデータにカーネル密度推定法を用いて、空間利用密度として移動パターン別に図化した。なお、第1図は園内全体を回遊した来園者の空間利用密度を示したものである。第1図から、来園者は人気の高いアトラクション周辺に滞留していることがわかる。また、移動パターン別に考察すると、先に観覧するアトラクションにより時間をかける来園者の傾向が明らかとなり、さらに、移動パターンそれぞれについても来園者の特徴的な空間利用が認められた。
 本研究では移動パターンの違いが、一連の観光体験としてどのように変化しているのも考察した。まず、アンケート調査で得られたアトラクション16施設に対する満足度を変数に、因子分析を行い、3つの因子を抽出した。これら3因子は多摩動物公園におけるアトラクションの評価、すなわち観光体験を支えているものと考えることができる。そこで、それぞれのアトラクションの満足度変数を標準化し、因子グループ別に分類して、平均した値を観覧順に並べて考察した。第2図はL1(全体左回り)における因子別の変化を示したものである。それぞれの因子の変化をみるとアトラクションを順々に観覧することによって、観光体験が複雑に変化していることがわかる。このことは動物園のアトラクション(動物展示)における観光体験が動物の動作自体に大きく影響されるものであるということも伺わせており、今後更なる考察を行う必要がある。
 以上、本研究では多摩動物公園の観光レクリエーション空間の特質を一部明らかにした。なお、本研究で得られた知見を応用し、今後、観光地やレクリエーション空間において、さまざまな状況に応じたルート設定や誘導に応用することを可能なものとしていきたい。

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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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