日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 104
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2008年岩手・宮城内陸地震の地表地震断層調査(1)
*今泉 俊文石山 達也大槻 憲四郎中村 教博越谷 信堤 浩之杉戸 信彦廣内 大助丸島 直史三輪 敦志
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抄録

1.はじめに  2008年6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震(Mj 7.2)の震源域である岩手県一関市および宮城県栗原市において,地表地震断層の有無を確かめるために,地震発生直後から何日かに分けて調査を実施した.その結果,地変は真打川左岸にあたる一関市餅転(もちころばし)付近から磐井川両岸の同市本寺付近を通過し,同市落合南方付近までの南北約10 kmの区間で断続的に確認された.以下,その概要を報告する. 2.調査結果  地表変位は,佐藤ほか(2008)の指摘どおり,遠地実体波の解析結果(引間,2008)から,大きなすべりが求められた領域と良好な一致を示し,大局的にみて餅転-細倉構造線(片山・梅沢,1958)に沿って出現したとみられる.変位は,概ね西上がり(西傾斜の逆断層)と見られるが,一部区間では,東上がりの変位が特に顕著であった. 1)東上がりの地変:一関市枛木立(はのきだち)では、典型的な地表変位が確認される(写真1).ここでは水田に最大比高約50_cm_の東上がりの小崖地形(撓曲崖)が出現した.水田は田植え後で全面に水が張られていたので,相対的に隆起した部分で水が干上がったり,逆に沈降した部分では稲が水没するなどの様子が確認された.    地震発生の翌日に撮影された空中写真(国土地理院)では,干上がった水田の様子が確認される.小崖地形はさらに北側に続き,隣接する駐車場ではモールトラック状の開口割れ目などが認められた.さらに枛木立北の林道北側の水田にも東上がりの地変が認められた.一方,小崖地形は南に隣接する牧草地に連続し,小猪岡川右岸のコンクリート用壁の破断(東上がりの衝上断層)を経て,県道49号線を横断する.さらに県道南側でも水田を横切る東上がりの小崖地形が認められ,上記と同様に隆起側で水田が干上がる様子が確認された.小崖地形は隣接する民家の基礎部分を食い違わせるが,さらに南側では斜面崩壊による崩積土に覆われて小崖地形は確認できない. 2)西上がりの地変:枛木立付近を以外の場所では,概ね西上がりを示した.これらは本震の震源解や余震分布などから推定される今回の震源断層(西傾斜の逆断層)と整合的である.西上がりの地変では,見かけの上下変位量はいずれも20 _cm_程度ないしそれ以下と見られる.例えば,一関市本寺,磐井川と産女(うぶすめ)川合流点付近では,取水賂に亀裂や短縮変形が認められた.フェンスと手すりは水平短縮により湾曲しており,支柱のパイプがはずれている.また,取水溝の側面は著しい座屈変形を被っている.ここでは取水溝の底と側壁の亀裂から,水平短縮量を20 cm程度,上下変位量を西上がり 10_cm_程度と推定した.また,圧縮変形がみられる取水溝の西側,磐井川左岸では,ほぼ水平の新第三系凝灰質泥岩・砂岩を切る小断層が観察された.ずれの量は非常に小さく,走向はおおむね北北東走向,約30ºで北西に傾斜する.これらの地層は10 º未満で東側に傾斜する.ただし,これらの小断層群と地変の関係は現時点では明らかではない.  また,一関市同市落合,蛇沢沿いの市道では,舗装路面および側溝の圧縮変形を伴う西上がりの小崖地形が見出された.側溝の短縮量は約10_cm_,上下変位量は約12_cm_である.この道路の南にある水田の北西側が干上がっており,西上がりの地変を示している.このほかに舗装道路の褶曲変形も認められる.  このように,これまで地変が確認された場所は,主として段丘面・谷底面などの沖積低地面や,道路・水路などの人工構造物である.一方,丘陵地(尾根・斜面)では崖崩れ・亀裂などはあるものの,明確な断層地変を確認することは現状では困難である. 3.課題  今回の地震は,過去の断層活動によって形成された断層変位地形(活断層)が,地震以前に確認されていなかった.  また,これまで発生した内陸地震の規模に比べて,今回地表で確認できる断層変位量は極めて小さかった.震源付近のすべり(断層変位)が,地表に十分に達していないと考えられる.今回の震源域の地殻構造は,中新世に形成された餅転-細倉構造線を含む北部本州リフト系による背弧海盆の拡大と後期新生代の大規模なカルデラ形成によって改変を受けている(佐藤ほか,2004).これらの地質学的イベントは本地域の地殻構造の力学・温度条件に擾乱を与えており,その影響は現在も地震学的観測から検出される(吉田ほか,2005).このような東北日本背弧域の新生代テクトニクスに起因する地殻・マントルの力学・温度構造が,当地域の地震発生様式,ひいては東北地方の活断層の分布に影響していることは確かである.

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