日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 311
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衛星リモートセンシングによる東シベリアにおける近年の植生変化のシグナル
酒井 秀孝*鈴木 力英近藤 昭彦
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抄録

1. はじめに: 気象衛星NOAAに搭載されたセンサーAVHRRの観測値をもとに,1980年代から植生指数(NDVI: Normalized Difference Vegetation Index)データが作成され,植生変化の研究が行われてきた.特に,ユーラシアの北方林ではNDVIの増加傾向が発見され,温暖化との関連が示唆されている(Myneni et al., 1997).しかし,グローバル~大陸スケールの研究は多く行われているものの,地域的な植生の詳しい動態についての研究は不十分であった.本研究では,レナ川流域を中心とする地域に注目し,植生変化の詳細なシグナルをNDVIで検出し,その気象との関連を明らかにすることを目的とする. 2. データと解析方法: 対象地域は東経90~150度,北緯50~75度の範囲とした.NDVIは全球をカバーするPathfinder AVHRR Landデータから得た.空間解像度は0.1度,時間解像度は10日(年間で36旬)で,1982年から2000年までを分析した.気象データとして,北半球の積雪域データ(NOAA/NESDIS; 1982~2000年)と,観測地点における地上気温データ(Baseline Meteorological Data in Siberia Version 4.1; 1986~2000年) を使用した.  NDVIから植生変化をとらえるにあたって,本研究では各年のΣNDVIとMaxNDVIの2種類の指標の変化を1982年~2000年の19年間について検討した.?NDVI は各年36旬のNDVIデータ中0.1より大きいNDVIの年間での積算値,MaxNDVIは年間36旬のNDVI値の中の最大値である.本研究ではこの2種類の指標の19年間の変化量,すなわちトレンドを計算した.トレンドはMann-Kendall rank statisticを用いて検定を行い,有意水準95%以上を有意なトレンドとして採用した. 3. 結果と考察: 図1に19年間のΣNDVIとMaxNDVIのトレンドの分布を示す.ΣNDVIの大きな正トレンドが北緯60度以南,東経120度以西の特に亜寒帯林の卓越するバイカル湖西部の地域に分布している.図示していないが,この地域では消雪時期が早期化している傾向が特に強いことがわかった.地域によっては19年間で約2週以上の消雪時期の早期化が起こっている.消雪時期が早まることによって,生育期間が延長し,?NDVIの増加傾向となって現れた可能性が考えられる.一方,MaxNDVIの大きな正トレンドは主に北緯65~70度のレナ川左岸地域で見られる.ここはタイガからツンドラにかけてのエコトーンにあたり,植生の変化が起こっていることを想像させる.図示はしていないが,この地域では消雪時期の早期化のほかに,年最低月平均気温の昇温傾向が確認できた. 参考文献 Myneni, R.B., Keeling, C.D., Tucker, C.J., Asrar, G. and Nemani, R.R. 1997: Increased plant growth in the northern high latitudes from 1981 - 1991. Nature, 386, 698 - 701.

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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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