抄録
[研究の目的とこれまでの研究進展状況]
盛岡市中央公民館は、南部盛岡藩の薬草園に由来する地に建てられ、藩政期の資料や文化財を保存・公開しておられ、当藩が幕末期に幕命の下に蝦夷地警備に当たった際に作成された多種多様な蝦夷地関係絵地図も多数所蔵しておられる。すでに平成10年5月に演者は、蝦夷地陣屋資料の調査の一環として当公民館で今回発表の絵地図の一部を閲覧させていただき、平成17年11月には科研共同研究のメンバー4名と館蔵資料目録をもとに200点近い絵地図及び関連史料を閲覧・撮影させていただくことができた。その調査成果の一部は、2006年5月の東北地理学会春季学術大会1)や2008年5月の歴史地理学会大会2)にて調査者の連名で口頭発表(・ポスター展示)した。
しかし、調査項目や撮影手順の不備、あるいは調査後の検討で新たに浮かび上がってきたな問題点、とりわけ同一のタイトル・内容をもつ複数の絵地図の系統分類、といったことを補足・解明するため、再度の調査がどうしても必要となったので、本年(平成20年)6月の上旬に当公民館を訪れ、142点の絵地図を再び閲覧・撮影させていただいた。
調査直前の段階では、絵地図の系統分類を明らかにするため識別・着眼点として、蔵書印による識別《「南部家図書」「上山主蔵書」》、 端書・題箋・由緒書きから明らかになる作成当時の事情、表紙の紙質・模様による区分《紺色の亀甲模様に竜の絵、薄茶色の太さの不揃いな横縞模様》、といったことを重視しつつ、閲覧・撮影する予定であった。しかし、調査中や撮影結果の検討段階でも、さらなる識別・着眼点ないし新たな区分の必要性が生じた。
[本発表の概要]
以上のような調査・検討の経緯を踏まえて、現段階では、表装・題簽字体・印影・描画精密度・由緒書きの点から、調査対象とした絵地図のうち、1850年代の第2次幕領期に作成されたものは、「藩(主)へ提出の正本」「その副本」「藩の各部署で利用分」「蝦夷地付留守居たる上山半右衛門の所持本」に大別するのが適切と考えられる。
本発表では、公民館所蔵資料目録の「海防」35-5の分類の中から、No.58「箱館表諸絵図」、No.63「東蝦夷地図」、No.65「蝦夷地各陣屋図」、No.66「蝦夷地関係図(蝦夷地御持場之図)」、No.67「蝦夷地雑地図」、No.68「蝦夷地雑地図」、No.70「蝦夷地雑地図」、No.72「木古内ヨリフシコヘツ迄縮図」、No.82「蝦夷地台場並大砲図」の絵地図群を採り挙げて、上記の分類法を具体的に示す。
注1) 戸祭ほか4名:盛岡市中央公民館所蔵の幕末蝦夷地陣屋関係絵地図について.
注2) 戸祭ほか5名:幕末蝦夷地に関する南部盛岡藩作成絵地図について-3所蔵機関(盛岡市中央公民館・函館市中央図書館・十和田市立新渡戸記念館)の同種絵地図の比較・検討結果―.
[付記] 本発表は、平成17-20年度科研「北海道・東北各地所蔵の幕末蝦夷地陣屋・囲郭に関する絵地図の調査・研究」(基盤研究B,17320132、代表者:戸祭)による成果の一部である。平成20年6月4-6日に実施した館蔵絵地図の閲覧・撮影およびその撮影画像の本発表で使用を許可いただいた盛岡市中央公民館の奥嶋正克館長ならびに便宜を図っていただいた佐々木渉学芸員の両氏、調査補助員の募集にご高配をいただいた岩手大学の遠藤匡俊教授および調査補助員の7名の学生諸君に感謝いたします。