日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 112
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在日外資系多国籍企業のR&Dマネジメントと埋め込み
*シュルンツェ ロルフ
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抄録


 本研究では、外資系企業の埋め込み戦略は立地の国際化の程度によって異なる、という仮説を検証する。第一の仮説は、知識移転を目的としている企業は組織マネジメントにおいて本国方式を適用し、R&Dマネジメントはグローバル化、あるいは国際化の進んでいるビジネス環境への立地を好む、というものである。第二の仮説は、独自の研究結果を出すことを目的としている企業は組織についても経営の方式についても現地、つまり日本に強く適応させ、日本人スタッフを配置することでR&D組織を現地のビジネス環境に埋め込もうという戦略を好む、というものである。
 東洋経済の外資系企業総覧(2004)による在日外資系企業3383社のデータを地域データベースと統合してビジネス立地の国際化の程度を求めた。外資系企業の中枢管理機能を表す変数を用いて、階層的クラスター分析を行い、完全連結法、あるいは最遠隣法を適用した。カウントデータを使ったため、距離測定法にはカイ二乗値を用いた。その結果、国際化の程度が異なる3つのビジネス環境に分類することができた。その3つとは、グローバルビジネス環境、国際的ビジネス環境、ローカルビジネス環境である。次の段階として、この分類を外資系企業の組織マネジメント志向およびR&Dマネジメント志向と対比させた。この分析には、2004年1月から同年4月、日本にR&D組織を持つ外資系製造企業185社を対象に行ったR&Dのダイナミクスに関するアンケート調査の結果を用いた。45%、84社から回答が得られ、そのうち有効な38社のデータを本分析に用いた。
 埋め込まれている外資系企業は経営に関して本国方式の適用と日本方式への適応のバランスをとりながら日本のビジネス環境のコンテクストに順応していると考えられる。日本人を配置することで経営組織と研究を現地化する戦略をとり、埋め込みに成功している外資系企業が多い。日本人は日本スタイルの方式を適用し、組織を埋め込んで、研究も日本のスタイルで行う。経営方式と立地コンテクストのミスマッチも見られた。国際化の進んでいない、あるいはまったく日本文化的なビジネス環境において本国親会社の経営方式を適用したり、国際的なビジネス環境に立地しながらも日本の方式を適応したりしている場合である。このような外資系企業はあまり埋め込まれていない。よく埋め込まれている外資系企業は、国際的なビジネス環境において、組織マネジメントとR&Dマネジメントに関して本国の方式と日本の方式を混合して適用している。国際化の進んだ東京のビジネス環境の優位性を持って、本国の経営方式を採用しているケースは実際、とてもまれであった。
 結果から、日本ではジオセントリック R&Dマネジメントはほとんどないと考えられる。日本でR&D活動をしている外資系企業の多くは、ローカルビジネス環境に埋め込まれるために組織方式も経営方式も日本に強く順応させる埋め込み戦略をとっている。外資系企業は経営と研究を日本人に委任しているケースが多いが、そのため本国親会社との間の知識移転は難しいといわれている。本国の方式を適用したり、本国からスタッフを派遣したりすることで異文化シナジーを創造するのに成功している在日外資系企業はわずかである。ビジネス環境コンテクストと組織マネジメントあるいはR&Dマネジメントの方式のミスマッチは、多くの外資系企業にとってR&D活動を日本に埋め込むのは困難であることを示唆している。よく埋め込まれている企業は異文化シナジーの創造を目指しており、ハイブリッドR&Dマネジャーを好む。結果から、外資系企業は立地条件ごとの適切な経営的適応について学ばなければならないことがわかる。今後、異文化R&Dマネジメントを通した文化的シナジー創造のモデルについて検証するには、経営的および科学的知識を創造し、また移転することができるような埋め込み戦略の詳細を調査するケーススタディが必要である。

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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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