抄録
はじめに
積雪が夏季の遅くまで残る砂礫斜面では,様々な地形形成プロセスが働いている。この地形形成プロセスを解明するためには,そこで発生する土砂移動の量や様式を知る必要がある。周氷河地域の斜面を対象とした地形プロセス研究は,ひずみプローブ法の開発により詳細な観測・議論が可能となった。そこで発表者らは,乗鞍岳に分布する複数の残雪砂礫地において土砂移動に関する詳細な観測をおこない,土砂移動プロセス解明を試みている。前回発表(2006年春)では標高2540m付近の砂礫地において融解期に流動が発生したことを報告した。本発表では,前回と同様の方法により残雪砂礫地で発生する土砂移動の量や様式の解明を目的とした観測をおこなったので,その結果を報告する。
調査地および調査方法
乗鞍岳山頂部・魔王岳の標高2700m付近に分布する残雪凹地を対象とした。この残雪凹地は10ha弱の面積で,中心部から周辺部に向かい砂礫地,草本植生,ハイマツ帯とほぼ同心円状の景観分布を示す。
この残雪凹地の中心部(傾斜23度)に広がる砂礫地において土砂移動および地温を計測した。土砂移動の計測にはひずみプローブを用い,地表から50cm深までの土砂移動状況を1時間ごとに1mmの精度で得た。地温の計測には自記式小型センサーを用い,地表面から50cm深までの7深度における温度を1時間ごとに0.1℃の精度で得た。土砂移動および地温の計測は,2005年10月より2007年10月の2年間おこなった。
結果および考察
2006年の凍土融解期に顕著な土砂移動が発生したことを捉えた(図)。地温は地表,30cm深,および50cm深でそれぞれ7月30日,8月2日,および8月5日に上昇が始まった。この地温上昇は,積雪が消えたことにより地表から始まった凍土の融解がそれぞれの深度に達したことを意味する。この間に土砂移動が発生した。ひずみプローブは7月30日から1cm以下の変位を捉え,8月6~7日には40cm深以浅で大きな変位を記録した。移動量は最大,地表~10cm深で8cm,10~20cm深で5cm,20~30cm深で3cm,30~40cm深で1cmに達した。地温の上昇に伴って土砂移動が発生したことが明らかなので,移動様式は積雪からの解放に伴う凍土融解および上方からの融雪水供給の二つの要因によって土壌水分が増加したことによる流動または滑りと考えられる。ここで,凍土上面を滑り面として滑りが起こったとすると,融解前線の到達と土砂移動がほぼ同時でなくてならない。ところが40cm以浅で起こった土砂移動は,40cm深で融解が始まってから57時間後のことである。これより,発生した土砂移動は滑りではなく流動であると考える。
