抄録
1.はじめに
視程とは、ある方向を目視したとき、黒ずんだ目標を、それと認めることができる最大の距離である。しかし、気象台の視程観測では、方向に関係なく最短の視程を記録しているため、方向による「見え方」の違いや、気象条件に左右される、同一目標の「見え方」の詳細な変化を知ることは出来ない。
物体を遠ざけると、物体は見えにくくなる。物体から発せられた光が、大気中を進む間に水蒸気や塵埃、雲粒によって散乱され、減衰するからである。つまり、物体の明るさや背景とのコントラストは大気環境や気象条件に大きく左右される。
そこで本研究では、2007年4月から11月の間、毎日9時に定点から複数方向の決められた目標を観察し、目標と背景のコントラストを求めた。その上で、観測時の天気、観測点付近の相対湿度やエアロゾル量、目標の背後の雲の有無を調べた。これらの条件に基づき、目標の見え方が変化する要因について考察した。
2.観測地域・観測方法
滋賀県の中央には、県の面積の6分の1を占める琵琶湖がある。伊吹山地をはじめ、1000m前後の山脈が琵琶湖を取り囲むように位置する。
彦根市は、琵琶湖北湖の東岸に位置する。観測点は地上高約44mのタワー最上部で、市内の湖岸に位置する。観測目標は、滋賀県内または周囲の府県との境に位置する6山地である。
2007年4月9日から12月2日の毎日午前9時に、観測点から目標をデジタルカメラ(SONY サイバーショットDSC-T1)を用いて撮影した。画像処理を行い、目標の明るさ、背景の明るさ、目標と背景のコントラストを数値化した。
コントラストは次式で表される。
C=(B0-B)/B0
(Cはコントラスト、B0は背景の明るさ、Bは目標の明るさである。)
水蒸気量およびエアロゾル量は、彦根地方気象台、市内の大気自動観測局の観測データを用いた。
3.結果・考察
観測点から3kmの距離に位置する目標は、農地に囲まれている。晴天時、水蒸気とエアロゾル量が多い日に、コントラストが低下した(例として、相対湿度とコントラストの関係を図1に示す)。その原因について目標及び背景の明るさを調べたところ、水蒸気量が増加すると目標の明るさが明るくなるためだった。水蒸気は太陽光をミー散乱させ、白色光を発する。この散乱光が目標の明るさを明るくしたと考えられる。また、エアロゾル量が増加すると背景の明るさは暗くなった。その結果、目標と背景の明るさが接近し、コントラストは小さくなった。以上の関係を表1に示す。
