日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 315
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中山間地域における小規模・高齢集落の限界化過程
*作野 広和
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抄録


I はじめに
 中山間地域では過疎化・高齢化の一層の進展により,自治活動や冠婚葬祭など集落機能が急速に衰える,いわゆる限界集落問題が生じている。提唱者の大野(1991)はフィールドワークの蓄積から経験値として集落が「高齢化率50%以上,戸数20戸未満」となると共同体機能が著しく低下することを指摘した。だが,社会においてはこの数値基準が一人歩きし,問題が矮小化されているのが現実だ。
 国土交通省や農林水産省など行政機関でも限界集落の実態調査を行っている。その結果,全国で約1,400の無住化危惧集落が存在しているとの報告はあるものの,その根拠はセンサスデータからの推計や,過疎指定団体など行政機関を通したアンケート調査の結果から得られたに過ぎない。すなわち,限界集落がどこに,どれだけ分布しているのかについても明らかになっていないのが現実である。
 そこで,本研究では中山間地域が全域に広がる島根県を事例として,限界集落の分布を把握するとともに,それらの集落がいつ,どのようなステップで小規模・高齢化していったのかについて経年的に把握する。これにより,小規模・高齢集落の限界化過程を把握することができ,集落の衰退過程を動態的にとらえることが可能となる。
II 限界集落の抽出と限界化過程の類型化
 本研究では島根県中山間地域研究センター(2006)のデータを用い,島根県中山間地域における限界集落の抽出を行い,その集落の世帯数・高齢化率の変化を基に限界化過程の類型化を行った。その結果,島根県内には限界化レベル1および2のいわゆる限界集落は232集落あり,このうち限界化レベル1の危機的集落が79存在していることが明らかになった。次に,1980年・1990年・2000年における各集落の高齢化率および世帯数の変化から集落の限界化類型を行った。
 その結果,停滞集落(9),漸進集落’(22),進行集落(97),急進集落(10) に類型化することができた。(カッコ内は集落数)。各集落は県内各地に分布しているものの,島根県西部の県境付近および石見高原上に多数分布していることが明らかになった。
III 限界的集落の特性と限界化要因
 次に,農業センサスを用いて類型別に人口,立地,農業経営などの集落特性を比較,分析し,限界集落に共通する限界化の要因を明らかにした。分析の結果,限界化を迎えた集落は先天的に小規模な集落が昭和の過疎により一層小規模化し,残存世帯が高齢化したことにより限界化したと考えられる。また,1970年代から80年代にかけての若年層の流出状況により限界化を迎える早さが異なっていることも明らかになった。
IV 事例集落における限界化過程
 この他,本研究では島根県邑智郡邑南町の旧羽須美村内における4集落を事例として,各集落の限界化過程と世帯経済や農業経営の実態についても明らかにした。このうち,高齢化率70%・世帯数10戸未満の危機的集落では集落の消滅もやむを得ない状況が確認された。また,今後も世帯の維持により存続が見込まれる集落であっても,農業経営はほとんど行われておらず,集落としての機能は確実に崩壊しつつある実態が明らかになった。

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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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