日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 214
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気象観測点周辺における土地利用とその変化を考慮した近年の日本各地域における気温変化傾向
*西森 基貴桑形 恒男石郷岡 康史村上 雅則
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抄録

著者らはすでに,都市と郊外の気象観測点における気温変化傾向の相違,例えば気象庁17官署(JMA-17)の山形と近隣の小国アメダスとの比較を行い,また大都市気象官署,JMA-17,および近藤純正が選定した11地点の各平均気温の比較からJMA-17にも都市影響が含まれていることを示し,さらに新たに非都市19観測点を選定し,気温変化傾向の地域性・季節性を論じた(07年秋季大会;西森ほか(2009)-農業気象)。今回はそれらに引き続き,都市の影響を取り除いて温暖化の農業影響を考える上で重要な「農耕地気候変動モニタリング地点の選定」とその選定過程において明らかになった,日本の地域ごとの気温変化傾向とそれに影響する周辺土地利用の関係について報告する。
 地上気温データの解析期間は,1980-2007年とする。ここで2003年以降の最高最低気温は,気象庁では10分ごとのデータにより算出するが,統計の連続性の観点から,1時間値から算出し直したものを用いた。解析手法は,線形トレンド解析を中心とする。また周辺土地利用との関係では,国土数値情報における1997年時点の3次メッシュ土地利用分布を用いた。集計に際し,農地は水田+畑地,都市率(UA)は建物+幹線道路とする。観測点周辺の土地利用算出に当たっては,地点から擬似円形5kmの範囲で藤部の対数的距離重み付け法を採用した。
 図1には,四国のアメダス地点における年平均日最低気温の線形上昇トレンドでの大きさを示す。これによると高松・高知という県都観測点の大きなトレンドが目立ち,都市の影響がうかがえる。実際このトレンドの大きさと,周辺UAとの関係を散布図にすると,UAの大きな地点ほど昇温が大きい関係が得られる。ただ年平均日最高気温トレンドの大きさと周辺土地利用との関係は明瞭でなく(図略),例えば高知県ではUA28.1%の県都高知,高知県農業技術センター内にあり周辺農地率42%の後免,都市化影響のない官署の室戸岬,そしてUA0.6%と高知県最小の梼原における日最高気温のトレンドの大きさはほぼ同じである。このように1980年以降は都市以外の観測点でも最高気温上昇が顕著で,その傾向は高知・四国のみならず広く西日本にわたり,さらに春秋の昇温が著しいことがわかった。
 図2は関東地方アメダス地点における年平均気温の線形トレンドを高中低に3類型化し,1997年時点のUAと農耕地率の散布図に上乗せしたものである。これにより,昇温トレンドと周辺土地利用に対応したアメダス地点の分類が可能となった。まず年平均気温の上昇が~1.0℃/25年と小さい地点(▲)は,みなかみ・那須など周辺が都市でも農地でもなく森林が多い高地観測点(Groupu-L)であり,いわゆるバックグラウンド気温の変化傾向を表していることが示唆される。またトレンドが1.4℃~/25年の地点(●)は,東京・横浜・千葉などの典型的な都市地点(Group-H)など,おおむねUA大の地点が多い。そしてトレンドが1.0~1.4℃/25年以下と中程度の地点(■)は,またいくつかのグループに分けられるが,UAと農地率がともに高い都市農地地点(M-1),農地率が極めて大きい龍ヶ崎・下妻(茨城県),真岡・大田原(栃木県)および横芝光(千葉県)などの純農地地点(M-2),UAが小さく比較的森林が多い森林農地地点(M-3)などに分類可能である。中でもM-2地点は「農耕地気候変動モニタリング地点」の目的に合致すると思われるが,その昇温程度はGroup-Lのバックグラウンド地点よりは大きいことがわかった。

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