日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 303
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地表面の凍結・融解にともなう礫の移動に関する実験
*瀬戸 真之須江 彬人澤田 結基曽根 敏雄田村 俊和
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抄録
I.はじめに
 森林限界を超える高山の斜面での凍結・融解による物質移動プロセスについて,これまで多くの報告があった(岩田,1980;檜垣,1990;鈴木,1992;苅谷ほか,1997;福井・小泉,2001;高橋・長谷川,2003など).森林限界以下の低標高山地斜面でも,局地的に植生が除去されたようなところでは,高山の斜面とよく似た物質移動プロセスが起こることがある.郡山・猪苗代両盆地の分水界に位置する御霊櫃峠(海抜約900m)には尾根上に裸地が広がり,そこには一種の構造土が発達している(鈴木ほか 1985).これまで,その微地形・構成物質や地表面物質移動の特徴について,田村ほか(2004),瀬戸ほか(2005),Seto et. al.(2006)が報告している.これらのプロセス・景観は,高山のそれととよく似ているが,標高が低いこともあり,非周氷河作用による物質移動も無視できないと考えられる.すなわち,周氷河作用と非周氷河作用の両作用が複合して斜面上の物質移動を引き起こすという,他の高度帯とは異なる特徴を持った物質移動プロセスが発現している可能性がある.そこで本研究では,実験斜面に礫を置いて凍結融解を繰り返し、どのようなプロセスで礫が移動しているのかを明らかにする.本報告では実験結果の速報を述べる.
II.実験方法
 今回の実験は北海道大学低温科学研究所の実験室で行った.この実験室は気温をコントロールすることで,地表面の凍結・融解を再現することができる.2007年および2008年にEx1からEx14の実験を行った.実験は発砲スチロール製の箱に厚さ約10cmの土壌を入れた箱Aと箱Bを用意した.傾斜は10度から15度とし,御霊櫃峠の砂礫地で採取した厚さ2cm程度の扁平礫を1つの箱につき,4個から8個置いた.各礫の表面には×印を2カ所付け,この交点の移動を観測した.礫の位置測定には専用定規と分銅を用いた.この方法では,測定者が慣れれば±1mm程度の精度で測定できると考えられる.さらに実験斜面の土層中には-1,-3,-5,-8cmにそれぞれ地温センサーを設置し,-2,-5,-8cm深に土壌水分計を設置した.箱の傾斜,土壌水分,室温の変化については実験ごとに設定した.
III.実験結果
ここでは主としてEx3の実験結果を報告する.Ex3では箱Aを15度、箱Bを10度傾斜させて実験斜面とした.室温を-10℃から+5℃まで変化させて実験斜面の土壌試料を凍結融解させた.実験斜面には径15cm程度,厚さ2cm程度の扁平礫を4個置いた.凍結開始は2008年9月20日13時,融解開始が2008年9月22日18時で,融解完了が2008年9月25日19時である.実験斜面の凍上(礫の垂直移動)は凍結開始直後に始まり,9月21日頃ピークを迎えている.水平移動量は凍上が終わり,霜柱が崩壊するときにピークを迎えた.その時期は9月24日頃である.一方,地温の観測結果は9月22日の夜に最低値を記録している.垂直移動量の最大よりも水平移動量が最大になる時期が遅れることからも,礫の移動は霜柱クリープによることが明瞭である.箱Aの平均凍上量は1.0cm,平均水平移動量は1.1cmで箱Bの平均凍上量は0.7cm,平均水平移動量は0.1cmであった.移動量の大きな差には,箱の傾斜のみならず,箱Aでは霜柱が成長し凍上した一方で箱Bでは霜柱がほとんど成長しなかったことが影響している.これには土層中のアイスレンズの成長が関与していると考えられる.
Ex1からEx13では傾斜と凍上量から算出される霜柱クリープによる礫の移動量よりも大きな移動量が観測された.したがって,実験斜面では霜柱クリープが認められるものの,礫の移動量はそれのみでは説明できないことが明らかである.  Ex14では凍結時に積雪を模した細かい氷で実験斜面全体を厚さ約1cm程度に覆った.この実験では室温を-10℃から+5℃まで変化させ,傾斜は箱A,B共に15度とした.この結果,融解時に地表面付近の土壌が水分で飽和し,マッドフローが発生した.このマッドフローにより礫は大きく移動し,斜面傾斜方向に最大で63.8mmの移動を計測した.この結果は御霊櫃峠において鈴木ほか(1985)が報告した観察と良く似ている.このことから,御霊櫃峠のような低標高の斜面では凍結・融解サイクルに起因する霜柱クリープのようなプロセスと,積雪の融解によるマッドフローなど地表面を流れる水が関与したプロセスとが複合して,礫を移動させていると考えられる.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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