日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 306
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航空レーザ計測データを用いた中国山地における鉄穴流し跡地の地形解析
*伊藤 史彦畠 周平小荒井 衛長澤 良太司馬 愛美子
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抄録

1. はじめに
 中国山地は、古くから砂鉄を原料とした「たたら製鉄」が盛んに営まれ、日本有数の鉄生産地帯であった。たたら製鉄の原料となる砂鉄は、山地の風化した花崗岩を崩して沈殿池に流し込み比重により選鉱する「鉄穴(かんな)流し」と呼ばれる手法により採取されてきたため、大規模な地形改変が生じた。現在でもその地形は鉄穴流し跡地として中国山地の随所で確認することができる。
 鉄穴流し跡地の地理学的検討はこれまでにも数多く報告されてきた。中でも貞方(1996)は空中写真判読および現地測量により、中国地方に数多く存在する鉄穴流し跡地の具体的な形態、分布、廃土量の見積もり等を地域別にまとめており、中国地方における鉄穴流し研究の一大報告となっている。
 しかし、鉄穴流しによる砂鉄の採取が終息してからすでに長い年月が経過しており、現在では跡地の大部分が森林に覆われているため、空中写真判読によって詳細な地形を把握するは難しい。また、広域の対象地において網羅的に現地測量を行うことには限界があると考える。
そこで、本研究では樹木下の地盤高データが高密度かつ広域に取得可能な航空レーザ計測により鉄穴流し跡地の計測を実施することで鉄穴流し跡地の詳細な地形を明らかにし、さらに取得したデータを用いた地形解析を行うことで、鉄穴流し地形の特徴抽出を試みた。

2. 対象地および方法
 調査対象地は鳥取県の南西部に位置する日野郡日南町の神戸上地区25km2とした。対象地は、鉄穴流しによる切り崩しの残りである「鉄穴残丘」や、崩した土砂を途中でせき止めて造成した「流し込み田」とみられる棚田など、鉄穴流しの名残が多くみられる地域である。
 航空レーザ計測は2008年11月14日に実施し、1点/1m2以上の計測点密度で対象地の高さ情報を取得した。
 取得した三次元計測データには地盤に照射されるデータの他に、植生や人工構造物といった地物に照射されたデータも含まれているため、フィルタリングとよばれる地盤・地物分離処理を施し、純粋な地盤高データを抽出した。
 その後抽出した地盤高データから数値地形モデル(DEM)を作成し、立体地図として可視化を図ることで、鉄穴流し跡地地形の把握を試みた。
 さらに、作成したDEMを用いて水文解析を行うことにより水系網データを作成し、鉄穴流し跡地地形の特徴抽出を行った。

3. 結果
 航空レーザ計測により樹木下の詳細な地盤高データの取得に成功した。取得した地盤高データから作成した赤色立体地図(特許第3670274号)を見ると、鉄穴流し跡地特有の鉄穴残丘や、山の斜面が切り崩された跡とみられる自然な地形とは考えにくい小丘が点在する場所が明瞭に判別することができる。計測時に同時撮影した空中写真と比較すると、空中写真では樹木に覆われていて地形が不明瞭な場所においても、航空レーザ計測により地盤高情報が取得され、鉄穴流し跡地の地形があらわになっていることがわかる(図1)。
 さらに、作成したDEMを用いて水文解析により水系網図を作成した結果、鉄穴流し跡地とみられる不規則な小丘が点在する場所において水系密度が明らかに高くなることがわかった。この結果は、鉄穴流しによる地形改変の度合いを示す重要なパラメータとなる可能性を示唆している。
 また、抽出された水系網を旧河道と考えると、そのような場所は、鉄穴流しによって削り取られた土砂を沈殿池に流すための「走り」と呼ばれる水路が存在していた可能性が高いと考えられる。
 今後、過去の文献調査や現地調査を行うことによりその確証を得ることができれば、鉄穴流し跡地の地形分類や植生解析等に有用な情報になると考えられることから、さらなる調査を続行する予定である。

文献
貞方 昇 1996. 『中国地方における鉄穴流しによる地形環境変貌』 渓水社.

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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