日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 511
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グローバルな技術移転と企業間ネットワークの進化
*與倉 豊
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抄録
I はじめに
現在,分析ツールの発達によって,計量的な手法を用いて主体間の関係構造に着目し,ネットワーク構造全体を体系的に把握することが可能となっている。
 本研究ではそのような分析枠組をグローバル企業間の技術提携や所有関係の分析へと拡張・応用する.企業単位で集計した外国資本の導入に関するデータを活用することで,国内だけではなくグローバルな主体間の関係構造を明らかにすることができる.また,時系列データを用いて社会ネットワーク分析を行うことにより,どのような主体がいつごろから構造的に有意な位置を占めているか,また外国企業のなかでも,どの国の企業との繋がりがどのタイミングで日本企業に影響を与えているかといった,ネットワークの進化の視点を導入することが研究課題として考えられる.
II 分析データと分析手法
グローバル企業間の技術移転を把握する際に,本研究では社団法人経済調査協会の資料『企業別外資導入総覧(上場企業編)』のデータを活用する.同資料では東京証券取引所一・二部に上場されている企業を対象として,外国投資の導入実績が,外資企業名・国籍・導入年といった内容とともにリスト化されている.本研究ではそれをもとにデータベースを構築し,社会ネットワーク分析を用いて,グローバル企業間の関係構造の可視化を行った.その際には,株式・技術導入・包括的提携など投資の種別ごとにネットワークを区分し,グローバル企業間ネットワークの特徴を分析する.なお、同資料において,各企業は業種別に整理されており,業種ごとの特徴の違いを明らかにすることができる.
III 分析結果
図1は化学産業における企業間関係構造を、(1)技術導入、(2)合弁会社設立や直接の資本参加、(3)輸入・販売といった異なる性質による繋がりをもとに、多重ネットワークによって表現したものである。ここで全999のノードのうち、約6割が米国企業である。ネットワークに重みをつけて、各ノードが有する統計量を算出した結果、1980年代半ばごろから米国およびドイツ国籍の企業の次数中心性が増加し、企業間ネットワークの進化に寄与していることが明らかになった。また同時期に一部の日本企業の媒介中心性も非常に大きくなり、多重な繋がりを形成していることが示された。ほぼ同一のノード数を有する一般機械産業と比較して、化学産業は株所有の繋がりが発達しており、関係構造がより密であることが確認できた。
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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