日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 101
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マーシャル諸島共和国・マジュロ環礁における洲島の基盤となるサンゴ礁の構造と形成過程
*菅 浩伸鈴木 淳横山 祐典中島 洋典鈴木 倫太郎安達 寛
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抄録

1.はじめに ミクロネシアのマーシャル諸島共和国は29の環礁より国土が構成される環礁立国である。今後の温暖化による海面上昇の影響が危惧される中で,首都のマジュロ環礁では海面上昇対策の護岸建設や礁湖側の埋立て護岸などのためにサンゴ礁礁原の石灰岩を採掘している所もある。本研究では同環礁で洲島の基盤をなし,また重要な石材資源ともなっているサンゴ礁地盤の構造とその形成プロセスについて報告する。 2.研究方法 まず,マジュロ環礁南部にて外洋から礁湖へ環礁縁を横切る基線を設定し断面測量を行った。さらに南部・東部・北東部の9カ所にて外洋側斜面の音響測深を行った。礁構造の観察・試料採取は以下のように行った。まず,環礁の外洋側礁斜面(水深6m)にて油圧式ボーリング機を用いた水中掘削を行い,6.53mのコアを得た。次に外洋側礁原上に残された水深5mに達する採石跡の壁面および礁湖側まで開削された船舶用水路の壁面にて礁構造を観察し,試料を採取した。あわせて礁原上の礫岩ビーチロックからも試料を採取した。採取した試料のうち20試料について東京大学とキール大学にてAMS年代測定を行った。また,試料は肉眼での観察とともに,エネルギー分散型X線分析装置付き低真空走査電子顕微鏡(SEM-EDS)による観察を行った。 3.環礁の地形と堆積構造 マジュロ環礁南部の洲島は幅狭で高度も低い。測線における洲島の幅は約130m,高度は平均海面上2~2.5mであった。洲島を載せる礁原は幅約300mであり,高度は外洋側礁原で平均海面付近,礁湖側でこれより40cmほど低い。洲島の外洋側・礁湖側には礫岩ビーチロックが分布する。外洋側の礁縁部には縁脚縁溝系が30m程度の地形帯を形成する。縁溝は外洋側の水深3m程度で消失し,水深3~6mで緩やかに外洋側へ傾斜する斜面が30mほどつづく。この外洋側緩斜面端部で掘削を行った。それより外洋側は急峻な環礁外側斜面となり,薄板状Montiporaが重なるように生育している。 掘削と露頭観察の結果,礁原ではPocilloporaを主としてHelioporaや緑藻類のHalimeda片を含む堆積構造が主であることが明らかになった。Halimeda片は礁湖側や外洋側礁原の下部で多い。礁縁部下部では枝状Acroporaの堆積が認められる。また,礁斜面では薄板状Montiporaが多く,現生生物相と整合的である。礁堆積物は高マグネシウム・カルサイトの晶出による膠結作用によって,特に礁原上部できわめて固く固結した構造を示す。その厚さは外洋側礁原で表面より1m程度,礁湖側で30cm程度である。 4.環礁礁原の形成過程  年代測定の結果,洲島を載せる礁原面は約4700年前から3700年前の約1000年間で形成されていることがわかった。このうち礁湖側がより早期に形成され,その後外洋側へと礁原が延びている。礁斜面上部の形成は礁原より遅れる。礁原の形成後,礁縁部から礁斜面上部が上方へと成長し,現在の急峻な外洋斜面と上部の緩斜面が形成されている。環礁外洋側の緩斜面(reef terrace)は現在の波浪環境に対応して形成されたものと推定できる。礁の成長速度は洲島周辺で6~7m/ka,礁縁外縁部で4m/ka, 礁斜面で1.6m/kaと,外洋側ほど,また形成時期が新しいほど低くなる。礁原上の礫岩ビーチロックの堆積は約2000年前以降である。 石材として利用される緻密に膠結した礁岩は,礁原表層部で約4700年前以降の千年間に形成されたものである。その分布域は限られており,現在のサンゴ礁において外洋からの波浪に対する消波構造を形成している部分で顕著に形成されていることがわかった。

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