日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 610
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残留磁化測定による北海道北部,利尻火山北麓の古期火山麓扇状地堆積物の定置温度推定
*植木 岳雪近藤 玲介
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抄録

 北海道北部沖の利尻島は,約20万年前から数1000年前まで(石塚,1999;石塚・中川,1999)活動した利尻火山からなる火山島である.利尻火山は標高1721 mの成層火山体と側噴火地形から構成される複成火山であり,山麓には火山麓扇状地が発達し,利尻火山の面積の60 %を占めている(松井ほか,1967;守屋,1975).利尻火山は約2.8万年前には現在と同程度の標高であり,当時山頂から山腹への侵食谷中には氷河が存在したと考えられている(三浦・高岡,1993;澤口ほか,1994).近藤(2004),Kondo et al.(2007)は,利尻火山南東麓の標高300 m以上に氷成堆積物を認め,氷成堆積物から2.4~1.5万年前の光ルミネッセンス(OSL)年代を得た.  利尻火山の火山麓扇状地は,段丘化した古期火山麓扇状地と段丘化していない新期火山麓扇状地に大別される(三浦,2003).利尻火山北麓では,古期火山麓扇状地の堆積物は海岸線沿いに新第三系を不整合に覆って露出しており,層厚30 m以上の砂礫層からなる.新期火山麓扇状地堆積物が成層した砂礫層からなるのに対して,古期火山麓扇状地堆積物の下部は不淘汰な厚い礫層からなることから,両者の成因は異なると考えられる.古期火山麓扇状地堆積物は約2.8万年前(三浦・高岡,1993)の野塚溶岩をはさんで堆積していることを考慮すると,その成因として噴火に伴う氷河の融解があげられる. 本研究では,古期火山麓扇状地堆積物の下部に含まれる溶岩礫が高温で定置したことを残留磁化測定によって明らかにする.  利尻富士町の湾内大橋直下の沢の右岸では,古期火山麓扇状地を構成する堆積物が見られる.ここでは,下位から層厚10 m以上の不淘汰な礫層,層厚40 cmのシルト・砂層,層厚約10 mの成層した砂礫層が重なり,層厚約6 mの降下テフラ層に覆われる.下部の不淘汰な礫層はシルト・砂のマトリクス支持で,最大径50 cmの玄武岩溶岩の角礫を含む.上部の成層した砂礫層は最大径80 cmの野塚溶岩の角礫を含み,スコリア質の砂層と互層する.  本研究では,下部の不淘汰な礫層の最上部に含まれる溶岩礫から残留磁化測定に供するコア試料をドリルで採取した.各コア試料は,常温から680 ℃まで段階熱消磁実験に供し,各消磁段階では30分加熱した.残留磁化測定には2G社製パススルー型超伝導磁力計を用いた.  単磁区粒子サイズのマグネタイトが常温で3万年間で獲得した粘性残留磁化は,約170 ℃で30分加熱することにより緩和される(Pullaiah et al. ,1975).したがって,200 ℃以下のみで認められる残留磁化成分は,古期扇状地堆積物に含まれる礫が定置した後に獲得された粘性残留磁化の可能性がある.200 ℃をはさんで認められる残留磁化成分を低温成分,200 ℃以上のみで認められる残留磁化成分を高温成分とすると,低温成分あるいは高温成分のみが認められる試料と.低温成分と高温成分の両方が認められる試料がある.  低温成分は室温~150 ℃のある温度から350~620 ℃のある温度の範囲で認められ,全体に方位はそろっている.10個の低温成分の平均方向は,偏角-34.3 °,伏角62.7 °であった.一方,高温成分は200~560 ℃のある温度から300~680 ℃のある温度の範囲で認められ,全体に方位はばらついている.  粘性残留磁化とは考えられない低温成分の方向がそろった理由として,古期扇状地堆積物に含まれる礫が高温で定置したことがあげられる.すなわち,低温成分は熱残留磁化であり,礫が定置したときの温度は,低温成分の上限温度である350~620 ℃であったと見積もられる.  利尻富士町の湾内大橋直下の古期火山麓扇状地堆積物の下部は,その中の礫が高温で定置したことから,火山活動に関係したものであることが確実である.また,礫層はシルト・砂のマトリクス支持で,不淘汰であり,この周辺の露頭から層厚は20 m以上である.これらは,古期火山麓扇状地堆積物の下部が山体崩壊や断続的な土石流によるものではなく,多量の水を伴うホットラハールであること,その最も適当な成因として,山頂あるいは山腹の氷河底で溶岩が噴出することによる氷河の融解を示唆する.

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