日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 710
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ダブルトランシット法によるパイバル上昇速度測定の試み
*中川 清隆渡来 靖榊原 邦洋浜田 崇田中 博春榊原 保志
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抄録

_I_.はじめに

 長野市裾花川谷口に位置する長野県立長野商業高等学校グランドにおいて,2.5m/sの一定上昇速度を持つ様にヘリュウムガスを充填して純浮力を55.7gに調節された自重20gの気球を用いたパイバル観測を,2008年8月30日正午~翌31日正午の毎正時に実施した.気球の方位角・高度角を,トランシット間距離53.28mのダブルトランシット法により2秒間隔で20分間測定し,その結果に基づく気球の地上高度の直接測定を試みた.

_II_.ダブルトランシット法による気球高度の決定法

 第1トランシットから見た第2トランシットの方位角をδ1,第2トランシットから見た第1トランシットの方位角をδ2,両トランシット間距離をLとする.上空にある気球の両トランシットから見た方位角と高度角を,それぞれ,φ1,θ1,φ2,θ2とすると,簡単な幾何学から,気球の地上高度Hは,次式

H=L/{cos(φ11)/tanθ1+cos(δ22)/tanθ2}    (1)

で求まる.180°とならねばならないδ1とδ2の差には,磁針による方位決定に起因する誤差が存在するので,この誤差を双方に半分づつ配分して調整する.トランシットの高度差は無視する.

_III_.ダブルトランシット法による観測事例

 放球と同時に2台のトランシットTAMAYA TD-4のmesボタンを押し,放球直後は補助者の誘導に従い,気球をロックした時点でmissボタンを押す体制とした.
 学部3年生の実習の一環として実施したため,観測技術未熟により起因するmissボタン押し忘れランが多数発生し,中には最初のmesボタン押し忘れの事態も発生した.また,一方のトランシットは観測を続けているのに他方のトランシットは早々とロストしてしまう事態も頻発した.強い降雨による欠測も2回発生した.
 8月30日12時と31日0時の観測事例を図(省略)に示す.横軸に放球後時間,縦軸に気球地上高度を目盛り,ロック(両トランシットでmissボタンが押される)以前が白抜き,以後が黒塗りシンボルでプロットされている.回帰直線の勾配から,ロック後最下層のパイバル上昇速度は,それぞれ,2.47 m/sと2.25m/sと見積もられる.これはシングルトランシット法で想定している一定上昇速度2.5m/sに近い.31日0時の地上付近は下降気流場であったことが示唆される.30日12時は地上高度1000m程度,31日0時は地上高度450m程度付近から気球上昇速度に乱れが生じているように見える.特に31日0時の変化は劇的である.
 これらの変動がノイズではなくて実際の現象であるか否かについては,現時点では,確定的な根拠を見出せていない.実在の現象である場合,観測サイト周辺地形による上昇・下降気流や振動現象等,局所循環の影響を受けている可能性がある.ノイズである場合,十分に時間が経ってφ1212に近づくと(1)式の分母がゼロに近づくため,僅かな角度誤差や読み取り同期誤差が地上高度Hの大きな揺らぎをもたらしている可能性がある.

_IV_.終わりに

 発表当日は他のランの結果も示す予定である.また,航跡図も示す予定である.我々としては初の観測経験なので,観測方法・データ処理方法の改善および観測誤差・現象の解釈等に関して,種々ご議論・ご教示賜ると幸甚である.
謝辞 観測場所をご提供いただいた長野県立長野商業高等学校および観測に従事された立正大学学生諸氏に心より深謝の意を表します.

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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