日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 203
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市町村合併による住民活動の変質
鳥取市鹿野地区のまちづくり事業を事例として
*佐藤 正志
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抄録

1.はじめに
 財政の逼迫化と多様化する問題対応への行政組織の柔軟性の不足から,現在公共運営では,住民や非営利組織を代表とするサードセクターなどの様々な性格を持つ主体の関与が重視され始めている.活動の分野においてもサービスの供給にとどまらず,地域振興の計画や施行といった自治への積極的な関与が全国的に進められるようになった.
 しかし,サードセクターに対しては,資金面を中心とした組織の脆弱性が指摘されている.サードセクター組織と行政との連携では,政府からの資金面でのつながりの必要性が指摘される.しかし,現在進められている財政の削減が,サードセクターの活動と展開に与えた影響は日本においてはまだ議論が少ない.財政削減は,特に小規模自治体での公共運営に強くインパクトを与えることから,サードセクターの活動への影響が考えられる.
 本発表では,資金面および活動に対する主体の関与という二点に焦点を当て,行財政の効率化の中での住民活動内容の変化の実証を通じて,行財政の再編が住民を中心としたサードセクターの活動とその展開にもたらす影響を考察する.対象事例として,山間部の小人口自治体であり,1990年代半ばから住民参加を進めた鳥取市鹿野地区(旧鹿野町)のまちづくり事業を取り上げる.

2.鹿野町における住民参加の展開
 合併前の旧鹿野町においては,1994年に町長が中心となって策定した「街なみ環境整備事業」が住民参加の契機となった.「街なみ環境整備事業」の推進には,建設業組合への事業推進への依頼や,鹿野地区の各町内会への建築物の意匠決定を通じて,事業が開始された.
 建築物や道路の修景が進んだことで,1998年ごろから商工会や町内会を中心とした住民組織が独自の修景事業を行うようになった.2000年には,町内団体が計画した鹿野地区の修景計画が鳥取県の街なみ整備コンテストで最優秀賞を受けた.この受賞を受けて,町内の各団体がまちづくりを行う団体を自主的に2001年に結成する.2003年には鳥取県のNPO認証を受け,住民の代表的な主体として,まちづくり事業に加わるようになった.

3.市町村合併前後でのまちづくり活動の変容
 財政の逼迫を理由に,鹿野町は2004年11月に鳥取市への編入合併を行った.合併後のまちづくり活動はNPOが中心となっているが,その活動内容は大きく変容している.合併前には,NPOは鹿野町や鳥取県からの補助金を主要な歳入源とし,建築物改修を基幹的な事業としていた.しかし,合併後は,物販や飲食店の運営などの自主事業へとシフトした.また,歳入もこれらの事業からのものが中心となった.一方,補助金の歳入も,鳥取市や鳥取県の削減がなされる一方で,新たに省庁や大学が実施する事業への公募や協働事業の実施といった,広域スケールからの確保に転じている.また,対象分野も,ハード面ではなく,イベント事業の開催などの分野が中心となっている.
 この背景には,合併後の鳥取市による補助金の削減や,合併後の地域振興を期待された第三セクターが活動を町内の施設運営と雇用の確保に限定しており,鹿野地区への資金面の流入がほとんどないことがあげられる.合併後,鹿野地区におけるまちづくり活動はNPOが中心的な主体となっており,活動の継続のため,自主事業や広域的な資金源の確保への転換を進めた.
 こうした資金の変化に伴うまちづくり活動内容の変化に対して,活動に関与する町内の住民組織は,合併後にイベント運営や修景事業においてNPOを中心として,第三セクターを含めた鹿野地区内に存在する町内会や各種団体との間で,運営協力や人的資源の提供などが行われている.こうした関係は,合併後に作られた総合支所内に設けられた委員会によって調整が図られており,イベントや修景事業の内容によって参加する主体が変化する.
 また,NPOは国土交通省や大学といった広域に存在する主体との間でも資金面以外で,活動への助言や,共同のシンポジウムの開催などのまちづくり活動の共同実施が行われている.特に国土交通省との事業の実施体制は,その関係を媒介として,中国地方を中心とした他市町村からの視察の受け入れを増加する契機となった.しかし,鳥取市本庁との間では,まちづくり活動における関係をほとんど持たないことが示される.

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