日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 208
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海外居住日本人女性による育児ネットワークとコミュニケーション・ツール利用の現状
*久木元 美琴
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抄録

はじめに
1990年代以降,少子化は社会問題として広く認知され,子育て支援はますますその重要性を強めている.特に近年では,孤立した親の育児不安や児童虐待が取りざたされ,育児ネットワークの構築や情報交換の重要性が指摘されてきた.
こうした育児ネットワークの構築,サポート資源の獲得は,結婚や出産を機に自らの出身地とは離れた別の地域へと移動したような場合,きわめて重要である.とりわけ,夫の海外駐在の随伴移動や国際結婚による定住で,海外での育児を経験した母親にとって,それはますます大きな問題となりうる.育児をとりまく日本との文化的・制度的相違に加え,サポート資源として重要とされる祖父母のサポートを得ることが難しいからである.
しかし,これら海外居住の日本人女性が,育児に関する情報をどのようにして獲得し,いかに現地のサービス利用やネットワーク構築を行っているかについては,必ずしも明らかにされていない.これらを明らかにすることは,育児ネットワークの構築やサポート資源の獲得が,国境を超えた遠隔地においてどのように実現されるかを考察する上で一定の示唆を与えるだろう.
さらに,中澤ほか(2008)は,海外就職の独身女性を対象に彼女たちの国際化の経験の内実を明らかにしたうえで,多様な主体の海外移住の経験の描出と,そこにみられる相違を整序していく必要性を指摘している.本研究では,こうした視点を踏まえ,海外居住とそこでの育児を経験した日本人女性の現地でのネットワーク構築や育児観,日本との関係性といった点にも接近してみたい.
目的と方法
本研究では,海外駐在員妻や国際結婚妻など,海外居住と育児を経験した日本人女性が,現地でいかなる育児ネットワークを構築しサポート資源を得てきたかを明らかにすることを目的とする.その際には,現地でのネットワークとともに日本との関係性,使用されたコミュニケーション・ツールに注目する.
調査方法は,海外での出産・育児を経験した日本人女性へのアンケート調査とインタビュー調査による.海外居住の日本人ネットワーク組織は数多く存在するが,ここでは,協力の得られた以下の団体を通じ,調査を実施した.すなわち,パリ日本人会内の子育てサークル「SOSママクラブ」と,日本語を含む様々な言語での教育を提供するリヨン国際学園である.
非英語圏であるフランスでは,言語の側面において日本人移住者にとって育児ネットワーク構築がより困難であることが予想され,そのような環境下での育児ネットワーク構築と母国との関係性,情報獲得の現状を明らかにすることには一定の意義がある.さらにフランスは,家族政策の充実により出生率を回復した国として知られており,そこでの外国人である日本人が,現地の制度をどのように活用しているかを明らかにすることは,日本における今後の育児支援体制を議論する足がかりになると思われる.
調査概要
 アンケートは,現地で0~6歳の子供の育児を経験した日本人の母親を対象として,2008年11月から12月にかけて配布・回収された.配布数は91,回収数は16である(回収率17.6%).アンケートでは,家族の国籍や本人の海外生活経験の有無,言語の習得水準等の基本的な情報のほか,現地での保育・教育サービスの利用経験と頻度や費用,託児が必要になった場合に現地でどのようなネットワークを利用したか,第二子以降の出産や入院などといった困難の際に日本から祖父母を呼んだかについての質問項目を設け,現地でのサービス利用・サポート資源における日本との関係を把握する.さらに,現地での子育てについてどのような情報源を活用したか,現地での日本人ネットワーク,インターネット上での友人・知人,日本の家族・友人といった関係性によって,情報交換の内容と使用するコミュニケーション・ツールの違いを明らかにする.発表当日は,アンケート調査の結果とともに,2月に実施するインタビュー調査の結果をあわせて報告する.

中澤高志・由井義通・神谷浩夫・木下礼子・武田祐子2008.海外就職の経験と日本人としてのアイデンティティ――シンガポールで働く現地採用日本人女性を対象に――.地理学評論81-3:95-120.

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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